第7回 林雅子賞 『レクイエム-死の紡ぎだす風景-』 徳江可那子

開催日: 2009年2月23日(土)
選定委員: 委員長 山本理顕
(山本理顕設計工場・横浜国立大学大学院教授)
西沢大良(西沢大良建築設計事務所)
藤本壮介(藤本壮介建築設計事務所)
林 昌二(建築家)
鈴木賢次(住居学科教授)
薬袋奈美子(福井大学講師・42回生)
会場: 日本女子大学 樟渓館3階ワークショップA室

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建築ジャーナル 2009年4月号pdf

第7回林雅子賞選定会ご報告

2月21日(土)目白キャンパス樟渓館3階ワークショップA室を主会場とし、選定委員長に山本理顕氏、選定委員に西沢大良氏、藤本壮介氏、林昌二氏、鈴木賢次教授、薬袋奈美子氏をお迎えして第7回林雅子賞選定会が行われた。  委員長山本氏をはじめとする選定委員諸氏の熱心な質疑応答、応募学生に対する激励の言葉、ユーモアあふれる意見交換などワークショップ室を埋め尽くした外部からの見学者を含む総勢160人が最後まで目を離せない選定会となった。応募者16人全員のプレゼンテーションで幕を開けた選定会は、一次審査で11作品に絞られ、二次審査での3回の投票を経て以下の受賞者が決定した。

林雅子賞   徳江可那子さん 「レクイエムー死の紡ぎ出す風景ー」
根岸米軍住宅跡地に墓地を計画。時間をかけて墓標が増えることで建築的な空間が出現し、ゆっくりと周囲に溶け込んでいくプロジェクト。100年後世界遺産に指定されているかも、という藤本氏の高い評価があった。

01山本理顕選定委員特別賞 福田悦子さん
「その窓はやがて道になる」
原宿コープオリンピアの跡地に商業施設等を計画。一番外殻の階高の高い2層の商業施設から中央の6層の住宅へと重層的な構造の複合施設の中へ通行者が誘われて行く。大変現実的なアイディアであり、入れ子状になることによって非常に長い立面が形成されるというのが大変面白いと、山本氏と藤本氏が評価していた。

02西沢大良選定委員特別賞 立石望さん
「まちのプロローグ」
JR磯子駅正面、市民の生活動線の中に開かれた市役所を計画。道路とつながる立体的にも複雑な動線を持つ計画。プレゼン時には駅前にあまりにも堂々と自由に計画されていることに対して、藤本氏から無自覚、非現実的、モンゴルの王様の宮殿を彷彿とさせるなど手厳しいコメントが相次いだが、西沢氏からは卒制は自由にやるべきであり、やりたいことが非常にはっきりと表現されていて素晴らしいとの高い評価があった。

03藤本壮介選定委員特別賞 脇本夏子さん
「都市の礼拝道ー息を吸って、吐いている建築ー」
渋谷桜丘町のビルに囲まれた土地に都市に陰影をもたらす精神空間を提案。ほとんど屋根のない構造物。ただし地下はある。ここに都市に暮らす人々が集い、佇む場を設定する。どの選定委員からも造形の素晴らしさが評価され、また、使い道のない裏側の空間がこの建築によって生まれ変わる可能性を感じるという高い評価を得た。
■JIA 全国学生卒業設計コンクール2009公開審査において特別賞(宮城俊作賞)を受賞しました。詳しくはこちら

04林昌二選定委員特別賞 布留川真紀さん
「家出していた家」
千葉・船橋の住宅地に計画した住宅群。インフラ配管を全て屋根の中におさめ、壁柱が屋根を支え、そこから居住空間が吊り下げられることで地表を自由にした計画。プレゼン時には屋根にテ-パ-をつけて厚みの威圧感を和らげた配慮がかえって寄せ棟風デザインとなりデザイン的に失敗しているという痛烈なコメントもあったが、住戸スペ-スが地表から浮いて吊られているという斬新な発想が評価された。

以上の受賞作品以外にも、1次審査で高い評価を受けていた作品、話題を集めた作品がたくさんあった。例えば1次審査で4票を獲得していた石井千絵さんの「マチににじむ波紋」。プライベートな空間からパブリックな空間へ、住宅が入れ子のレイヤー状態になっている住まい方はとても魅力的で、山本氏が「藤本氏の作品よりも成功している」と絶賛。倉田加奈子さんの「井の頭自然動物園」リニューアル案は、ガイドツアーの形式でプレゼンされ、選定委員も会場も大ウケ。また、力強いドローイングには西沢氏もオーラを感じる!とコメント。藤本氏も建築家にはキャラが立つことが必要であり、倉田さんには独特のキャラがある、と評価していた。井口奈々子さんの「天使のハシゴ-市街地に建つホスピスの計画」は 誕生の時と死別の時を、特定の施設(病院)の中に隔離しがちな現代において、その一方の場であるホスピスを日常の市街地に置くという大変難しいテ-マに取り組んだ提案だった。部外者も利用する図書館を導入部に併設し、内部との境が曖昧なプランは大変大胆に思えるが、本来日常と死は隔離しないことの方が自然なのではないかと考えさせられる。

受賞者には選定委員から著作のプレゼントもあり嬉しそうな笑顔が印象的だった。16作品全てが素晴らしく甲乙付けがたかったため、選定は非常に難航し予定の時間を大幅にオーバーして終了した。また選定会の後、行われた懇親会ではサンドイッチやお菓子をつまみながら選定委員からコメントや、アドバイスをいただいたり、記念写真を撮ったり、応募者全員に贈られた参加賞に選定委員のサインをいただいたりと和やかなひとときも。

選定会が盛会のうちに終了できましたこと、ご協力いただいた皆様に心より感謝申し上げます。特にお忙しい中、選定委員長を務めてくださった山本理顕氏をはじめ、西沢大良氏、藤本壮介氏、薬袋奈美子氏、鈴木賢次教授の選定委員諸氏に厚く御礼申し上げます。また、住居学科の先生方をはじめ、関係者皆様のお力添えにもこの場を借りてお礼申し上げます。

(HP係:玉木、浜崎、崎田)

 

選定委員長より  選定委員長山本理顕氏

さすが日本女子大:山本理顕
自分の考えた建築がその周辺環境の中でどのようなかたちで実現するのか。それがどのような建築であっても周辺との関係を考えずにその場所に実現させることはできないはずだから、周辺環境との関係は建築を考えるときの大原則である。その原則は卒業設計のような架空の建築であっても同じである。いや、むしろそれが架空だからこそ、その関係を自分の中で一つの理論として作り上げなくてはならない。その理論がつまりデザインなのである。
「レクイエム」は米軍から返還された住宅地を墓地にするというアイデアである。周辺との関係に必ずしも説得力があるわけではない。むしろその抜群の造形力で林雅子賞に選ばれた。単一の形態が限りなく反復される風景が既に墓標そのものである。
「都市の礼拝道」はこれが礼拝ではなくてもう少し都市的な役割を担うことができたらとても優れた提案になる。でも架構のシステムに見合った造形は極めて魅力的である。「その窓はやがて道になる」は幾重にも入れ子状の提案である。この手法によって極めて長いファサードが獲得できる、この場所なら十分に説得力がある。
全体の印象としては、周辺環境との関係を考えるその訓練が良くできていると思った。抽象的な造形に留まっていないというのはさすが日本女子大!