第13回 林雅子賞 『みつめ、考えるための建築-人々が行き交うホームの上に-』箕輪 久子(ミノワ ヒサコ)

日時: 2015年2月21日(土)
選定委員長:槇文彦(建築家)
選定委員:北山恒(建築家)
選定委員:橋本都子(建築家/M14回生)
会場:日本女子大 新泉山館1 階 大会議室

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第13回林雅子賞選定会のご報告

今回の応募総数は13作品。まずは見学者約80人の見守る中、やや緊張した面持ちの応募者13人全員のパワーポイントによるプレゼンテーションが行われました。次に、模型を前にして、選定委員の先生方の質疑を交えながら、具体的な設計内容について応募者各々の思いを伝えました。北山氏の厳しい指摘に緊張の高まる中、懸命に言葉を探し自分の思いをなんとかを伝えようとする応募者の姿が非常に印象的でした。その後一次審査で6作品に絞られ、さらにそこから選定委員各が2票ずつ投票。3票、2票、1票をそれぞれ獲得した3作品が残り、そのうち、選定委員3名全員から得票した作品が林雅子賞に決定されました。選定委員特別賞もこの投票で得票した残りの2作品がまず選ばれ、最後に北山氏が1作品を選び、すべての賞が決定されました。

・林雅子賞  箕輪 久子(ミノワ ヒサコ)さん
「みつめ、考えるための建築-人々が行き交うホームの上に-」

現代は、みつめ、考える時間も場所もなくしている。建築とは本来そうした大切な時間をも囲うものとしてもあったのではなかったのかと考え、道具と反道具という言葉に着目し、道具および道具のために作られた空間にその隙間を見つけ、そこに反道具的空間を挿入することを提言。そこで選んだのは新宿駅ホーム。ここは毎日絶え間なく人々が行き交う場所。まさに道具的空間の象徴ともいえる駅のホームの上に反道具的空間を挿入するという斬新な設計提案をした。この挿入された反道具的空間が、ゆっくりと時間をかけてみつめることの大切さを考えるきっかけとなってほしいという箕輪さんの思いがあった。

選定委員からは、建築とは機能性を付けるものだが、あえて機能的な建物の上に異なる空間を作るという提言に発想の自由を感じたとの意見や、居心地の悪いところを選んでそれを変えていくという発想がとてもよかったとの意見があがった。この「発想の自由」という点が高く評価された。

各選定委員特別賞としては次の3作品が選ばれた。

・槇文彦選定委員特別賞 徳重 早織(トクシゲ サオリ)さん
「輻輳都市2M(ふくそうとしにめが)」

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物質、情報、それらによって引き起こされる事象をコンテンツとし、この膨大なコンテンツと人との共存について再構築し、コンテンツが真に人の心や身体の延長として機能する空間を見出すことをめざした提案であった。敷地を渋谷区宇田川町。プログラムを複合施設(学生寮、学校のサテライトオフィス)として設定。フラクタルな形状を用いて、前後の関係性を重視した設計を行った。製作された巨大模型は圧巻であった。選定委員からは発想の自由や、余りある内なるエネルギーを感じる。といった意見があがり、これらの点が評価された。

 

 

・北山恒選定委員特別賞 石塚 真菜(イシヅカ マナ)さん
「都市の隙間」

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“囲まれ感”に注目し、人が居心地良いと感じることでコミュニケーションを誘発するような空間を提案した。場所は東京都目黒区。廃校となった区立中学校の躯体を利用し、壁を取り払い“囲まれユニット”を挿入することで周辺住民の為の複合施設を計画。かつてのコミュニティを新しいコミュニケーションの場として再構築するこの手法は、今後増加するであろう他の廃校舎に於いてもシステムとして有効である点を北山氏も評価したようだ。

 

 

・橋本都子選定委員特別賞 中村 沙樹子(ナカムラ サキコ)さん
「公民家“久保のおばあちゃんち”-山口県下松市来巻古民家の改修・活用計画‐」

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明治41年建築の古民家、現在空き家となった自身の祖父母の住宅の再生を提案。既存の建物を改修し周辺住民の“憩いの場”として地域に開放すると共に、現地農業法人の研修生の宿泊拠点としても提供する計画。改築され少しずつ姿を変えながら人に使われ続ける“家”の1つの生き方を模索した。現地において丁寧なヒアリングを重ね、地域のニーズを汲み取った上で、計画の具現化までも見据えた姿勢が高く評価された。

 

 

選定委員の先生方の総評として、13作品全てがなかなかの力作であったとの評価を頂いた。槇氏からは「課題は“緑”の考え方。もっとLandscapingの重要性について真剣に考えて欲しい。」とのご指摘を頂いた。北山氏からは「全体的にテーマ設定が似ていた。建築が地域社会の問題や日常生活をいかに支えるかというのは重要なテーマで回答がない。日本女子大の学生が高いレベルでこのテーマに課題設定していることに感心した。」とお言葉を頂いた。卒業生でもある橋本氏からは「今日見つけた様々な課題を大切にし、向き合ってほしい。また、未来に夢が持てるような設計の提案があると更に良い。」とエールを頂いた。

長時間にわたる選定会でしたが、ご協力頂きました多くの皆様に心より感謝申し上げます。特にお忙しい中、選定委員長を務めてくださった槇文彦氏はじめ、北山恒氏、橋本都子氏の選定委員の方々には、応募者それぞれに対し、鋭い観察眼で厳しくも温かいアドバイスを多数頂戴いたしました。厚く御礼申し上げます。 また住居学科の先生方をはじめ関係者皆様のお力添えにもこの場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。(文責:HP係矢頭順子)

選定委員長より 選定委員長 槙 文彦氏

第13回林雅子賞選定会に参加させて戴くことは私にとって久し振りに大学卒業設計を通して、現在建築設計を志す若い人達が何を考えているかを知るよい機会であった。その期待を裏切らず、13点の作品には力作が多かった。

これ等の作品群には当然彼等の日常の生活の中にあらわれる様々な問題に直接立向うものが多かった。例えば既存町並の中で考えられる住まいのあり方、或いは保育園が示唆する周辺のコミュニティとの新しい関係、自然と都市の媒体としての建築の姿、未使用の住宅の再生に対する提案など、まさに彼等をとりまく「現在」が無言の設計の師匠であることを端的に示し、それに取組む彼等の真摯な態度に大変好感がもてた。
しかし一方、新宿駅のプラット・フォームの屋根面を利用して新しい人々の交流の場を創造しようと試みる箕輪久子の大胆にして新鮮な提案、或いは徳重早織の「輻輳都市2M」のように単位小空間からつくられる巨大な住居棟までのカタのシステムを追求した提案等、この二点は発想の自由が建築には常に重要であることを示している。

当然ながら13点の作品の多くには建築と、それをとりまく外部空間、特に緑化を示すものが多かったが、私の印象を端的に云えば、彼等は在学中、充分なランドスケーピングの訓練を受けていなかったのではないかということであった。
私が1952年、ハーヴァード大学のマスターコースに入った時、建築学科には一人も女子生徒はいなかったが、ランドスケープ学科には既に二人の女子学生いた事をよく覚えている。

今後、エコ、優しい環境づくりにランドスケープアーキテクトは益々欠かせない存在になるであろう。その時、日本女子大の優秀な卒業生の中から積極的にランドスケープ・アーキテクチャーを専攻し、或るものは大学に帰ってきて、学内に新しい核を育てあげることは、日本女子大学住居学科の21世紀の楽しい目標の一つになり得るのではないかと思う。