「旧公衆衛生院見学会」に参加して

2019年10月5日(土)時季外れの記録的な暑さの中、旧公衆衛生院見学会が44名の参加を得て開催されました。旧公衆衛生院は港区白金台にあり、現在は改修され、港区郷土歴史館を中心とした総合施設「ゆかしの杜」として利用されています。

まず見学の前に、今回の改修に携わられた東京大学名誉教授 藤井恵介先生に解説をしていただきました。

本建物は昭和13年に竣工、内田祥三(よしかず)氏により隣に建つ東京大学医科学研究所と対になる建物として設計されました。
内田祥三氏は関東大震災後の東大本郷の校舎復旧を主導し、震災後の建築行政に尽力し功績を残した建築家です。
白金の高台にあるこの建物はご本人も大変気に入り、西麻布の自宅からよく眺めていたといわれています。

公衆衛生院は2002年に改組され和光市に移ったのち、建物は20年間放置された状態となっていました。
2009年 港区が国との等価交換により土地と建物を取得。
2010年 荒廃した本建物の保存を危惧する近隣住民への説明会を経て用途変更を行い、改修工事を実施。
2018年 「ゆかしの杜」としてオープン。
(基本設計:日本設計、実施設計:大成建設・JR東日本・香山壽夫建築研究所)

改修に当たっては保存の程度により以下のように分けて公開、使用されています。
Aゾーン(当初のまま展示空間として残す):旧院長室及び次長室、講堂など
Bゾーン(新設部分と保存部分をわかりやすく改修利用)
Cゾーン(基準法に則って構造を補強し実際使用できる空間として利用):コミュニケーションルーム、郷土歴史展示室、福祉施設等

改修後の建物の一部:港区立郷土歴史館

「建築の保存」とは、その適切な延命措置・・・モラトリアムが大切と藤井先生がおっしゃられた言葉が印象的でした。
当施設は大規模な用途変更を伴う延命を行い、近代建築保存としては東京駅、安田講堂の次に位置する事例として、今後の建築保存のガイドになることが専門家の間でも願われています。

続いて長く港区の文化財保護の仕事をしてこられ、ここ郷土歴史館の学芸員である川上氏からもご説明をいただきました。

公衆衛生院は国民の保健衛生に関する研究と教育を合わせた大学院のような機関でその研究が長寿国日本を作ってきました。

当時は6階に学生寮があり、1階には食堂もありました。現在寮部分は区民の福祉施設として、食堂部分はカフェとして活用されています。

カフェ

改修にあたっては区の施設としての安全安心の確保の方針と、既存部分の保存の判断が大変むずかしかったそうです。また、以前は共有されていた既存の正門が国の管轄(隣接する東京大学医科学研究所)と区施設の「ゆかしの杜」で管理が分かれるため、当施設が既存の正門から直接入れないようになっているなど問題も残りました。

お二方のお話の後、川上氏を中心に建物をご案内頂きました。

正面入口の池。かつては水深が1.7mもあったそうです。

 

外に出て、外観を一望、エントランスは白色の丸い5連アーチと上部に塔屋を構え、これを挟んで左右にコの字型に開いた6階建ての両翼が広がっていました。
アーバンスクラッチタイルのアカデミックで重厚な内田ゴシックは青空に映えて壮観でした。前に並んで早速記念撮影をしました。

参加者全員で記念撮影!
エントランス

アーチをくぐってエントランスに入り、明るい吹き抜けのホールへ。床は黒と白で囲む形の大理石のモザイクが連なっていて、広々と見えます。

エントランスの天井
2階部分

正面の回り階段を左右に分かれて上がったり下がったり、2,3,4階の主にAゾーン(当初のままの空間)を見学しました。
3階の旧院長室は当時高級材だったべニアの壁、寄木の床のシックな雰囲気。

旧院長室

シックな雰囲気の4階旧講堂は340席の大ホールで、白い壁に木の梁や柱の取り合いが心地がよい空間でした。基準法上、現在講堂として使用できないのは本当に残念な感じがします。

旧講堂
旧講堂

各階の古いエレベーターはダクトとして使用され、トイレなどに段差のあるところは車いす用のリフトを設けるなどの工夫がされていました。

照明も素敵でした

各種照明器具や明り取りのデザイン、取り外した旧部材を再利用したガラステーブルなど見るべき細部も多く、短時間ではとても回り切れず、学芸員の川上氏も心残りのご様子でした。また、伺いたいと、、、

当時の部材を再利用したテーブル

 

見学を終えて、隣の医科学研究所や付属病院の前を通り林を抜けて裏門を出るとプラチナ通り(外苑西通り)です。
ほど近くのちょっとレトロなイタリアンレストランで和やかな昼食、各テーブル話に花が咲き、14時に解散しました。

食後の運動をしたい方々は高輪方面の散歩、15名ほど参加。八芳園前を通過、明治学院チャペル(大正5年)、ハーフティンバーの旧図書館(明治23年のち移築復元)を見物して、高輪台の丸いかわいい消防署(二本榎出張所、昭和8年 ドイツ表現主義)の3階で江戸時代の火消し道具や建設当時の付近の写真など興味深く拝見。

明治学院大学のチャペル
高輪消防署 二本榎出張所

最後にカラフルな高輪一丁目住宅(都営アパート平成8年竣工)を抜けて赤穂浪士17名の自刃の地をこわごわのぞいてみました。上皇御一家が仮住まい予定の皇族邸の裏通りを通って白金高輪駅にたどり着きました。旧細川邸の椎の大木(都の天然記念物 樹齢300年以上)に見送られ盛り沢山の見学会を終えました。

今回は一般参加者も受付け、建物保存運動をされている男性グループの方々3名及びご夫婦での参加の方もいらっしゃいました。また、学生さんも4名ほど参加されました。

秋晴れの空の下、伝統のある素敵な空間の中で、楽しいお話に花が咲き、とても充実した見学会となりましたことを、企画、ご参加いただいた皆様に感謝いたします。

2019年度企画第3弾は2月29日に交流会を予定しています。詳細は近々掲載します。次回もたくさんのご参加をお待ちしております。

(文・写真:企画係・広報係)