人生にとって建築は、生活機能や美意識を満たすためだけのものではなく、それに関わる人々にとっての精神的な砦でもある。その個人にとって意味を持つ空間としてのこうした価値は価値や機能として認識されることは少ないものの、「愛着」や「思い出」に反映されながら、確実にその空間の評価・認識への重要な役割を担っている。
しかし時と共に必ず生じるその物理的空間の変化の必要性に際し、この各個人にとって意味を持つ空間としての価値は、精神性の非即物的価値故に、重要視されないことが多い。
だが本当はそういった対建築の精神性こそが私達個人が建築を評価する最大の基準であり、対人間空間において最も大切にされるべき点ではないのだろうか。
そこで、新しい空間の内に今までの精神的な砦としての意義を遺しその想いを持続させることで、今まで我々の砦にとって打撃であった出来事を嬉しく有意義な改新に出来ないかと考えた。
「改新」は、健全に生き我々の精神的な砦を「持続」させる上の有効な手段になり得るはずだ。
実施の設計でもあるこのヤマユリソウの新築で、より感情を持った生命としての「ひと」と対人間空間としての「砦性」を大切にする、空間の本質のリノベーションを提案したい。
選定会委員長より 選定委員長 林 昌二
第1回林雅子賞は、「ヤマユリソウ改新と持続-森山ちはるさん」に決まりました。
選定会に参加した一員として、印象を記します。
この作品が選ばれた理由は、土地と住居の歴史を読み込んで(「地籍」と「人籍」)、実現を予定する現実の設計にまで纏め上げ、力づよく手書き図面で表現した点が評価されました。
選考は、学生たちに囲まれた中で、発表者18人に与えられた各6分の説明を聞いたのち、委員7名が別室で意見を交換して行われました。意見はかなり拡散し、食をテーマに選んだ発想や、ニューヨークや飯田橋など都市スケールの問題に勇敢に取り組み、CADを駆使して美しく仕上げた作品への評価も高く、甲乙つけ難い論議が展開されたのでしたが、数ある賞の中でのこの賞の性格を考えて、この結論に落ち着きました。
念のため申し添えますと、対象を「住居」に限るような狭い考えは全くないのですが、あえていえば「居住」を基本に据えた発想の中から選ぶということが、日本女子大住居の出自に相応しいのかと、私は感じています。