第18号 稲葉 優子 (43回生)

神木イエス・キリスト教会 青葉チャペル

この建物は横浜市たまプラーザ駅から歩15分、起伏の多い港北ニュータウンの一角にあります。もともと信徒として通っていたキリスト教の教会の新築移転について、牧師先生より相談をうけたのが設計のはじまりでした。資金は全て信徒の献金だったため非常に厳しく、おりからの不況で融資の困難、契約ゼネコンの工事打ち切りなどさまざまな苦労の末に竣工されました。土地の購入から、完成まで7年の歳月がかかりました。

写真(左中央および表紙右)は大人のための大礼拝堂(200人収容)で会堂棟、丘の上にたつ小さな建物は牧師住居と子供達の日曜学校のためのホールがあり教育館(左下)と呼ばれています。大人と子供の二つの機能に建物を分け、敷地の高低差(高低差約15m)を利用して2棟の建物を建てました。下の会堂棟の大部分が地盤面下になり、道路面からの圧迫感を避けるためコンクリート打放としました。丘の上の教育館は誰が見ても教会とわかるシルエットにしました。

大礼拝堂が外気に面するのは一面だけだったので、思い切ってすべてカーテンウォールとしました。しかし景色が見えると祈りに集中できない・・・そのためテイッシュガラスとして光だけを取り込むようにしました。このため礼拝堂はふわりとした光に包まれたやさしい空間になりました。一方でガラスの反射によるエコーがかかるので壁に傾斜をつける、壁にグラスウールを裏打ちした格子を作るなど技術的な工夫もしています。教会はプロテスタントなので、装飾や象徴性よりも快適、健康、機能を徹底的に追求するよう求められました。

教会、というとおごそかで静かな空間を連想するものですが、若い人が多く、使命感のある活動的なスタイルの教会にふさわしく機能的でやさしさのある建物になることを目指しました。おごそかで厳しい神様の表現はよくみうけますが、やさしくてあたたかい神様、を表現した教会というのは少ないように思います。この建物はそういった意味でとても新しい教会の表現をしていると思います。

余談ですが、庭の芝やスロープなどは全て信徒の手作りです。また牧師先生をはじめとして、信徒の皆さんが新しい教会を大切に使っていこうと掃除、メンテナンス等の作業を人任せにしないで自分達の手で行っています。神様に最高のものをささげたい、という信徒の熱意によってこの建物は完成したと言えると思います。苦労の多い現場でしたが私もとても貴重な体験をさせていただきました。

作者紹介 稲葉 優子 (43回生)

1971東京都生まれ
19933月 住居学科卒業
1993~1996内装施工会社勤務
1996~2004(株)旦設計計画勤務
2005i・design 一級建築士事務所 設立
現在に至る
メールアドレスinaba@noah-music.tv