第28号 正宗 量子 (9回生)

終 の 棲 家

これまでに、終の棲家、つまり人生の終盤に住む住まいを5軒ほど設計する機会に恵まれた。その内の3軒をご紹介しよう。
3年前には、卒業論文の指導者である日本設計(株)の創設者、池田武邦氏の終の住まいのお手伝いをし、多くの環境と自然と共に生きる循環型の住まいについて学んだのだった。九州大村湾、琵琶の首鼻と言う静かな岬に建つ茅葺屋根の先生の別宅名は「邦久庵」。ご夫婦の頭文字を繋げたものだ。そして、総て『土に還る素材』なのだ。台所からは海と空と遠くの緑が目に沁みる何と穣な佇まいなのだろう。作業台のカウンター素材に床の間と同材のタガヤサンを使わせていただけたのは、私にとりこの仕事を象徴する出来事だった。

T邸は、昨年から今年にかけ設計した私の隣家の80歳を越えたご夫妻のためのゲストハウスだ。熱心なクリスチャンで、レンガの八角形リビングホールは集会をするとき目に付きやすいためのシンボル塔だ。完成後には何度となく賛美歌の美しいハーモニーが響いてきた。

U邸は、洗足池畔に近い88歳(現在92歳)の友人の母上の終の棲家
だ。88歳に住宅を新築する勇気に敬意を表したが、二人のお嬢さん、孫達を近い将来呼び寄せ共に楽しく暮らすための四世帯のバリアフリー住宅である。二項道路に面して門は造らず、孫世代の為にオープンな駐車スペースを自然な形で確保している。庭と住宅との接点は、木製テラスで繋ぎ、住まいから庭への視線を対角線上に位置させ広々と感じさせた。

私は、女子大の非常勤も定年を迎え、これから人生終盤の舞台を真剣に考えねばならない。仕事を通して素晴らしい出会いや生き様の多くを学べるのは設計冥利に尽きるし有難い事だと感謝しているこの頃である。
表紙(最上)写真撮影: 相原功氏

作者紹介 正宗 量子  (9回生)

一級建築士/インテリアプランナー
元日本女子大学非常勤講師(食物学科・住居学科)
日本建築学会、日本生活学会、JIPAT,UIFA・JAPON各正会員

1959年日本女子大学家政学部生活芸術科住居専攻卒
同大学助手を経てMAG建築設計グループ結成
主たる著書:正宗量子一級建築士事務所主宰
主たる著書「住まいの台所100章」鹿島出版会
「生活学事典」TBSブリタニカ  他