2月28日(土)13時より、八十年館851教室にて、飯尾昭彦先生と鈴木賢次先生の最終講義が
ありました。在校生に混じってたくさんの卒業生たちが集まり、学生に戻った気分で聴講
しました。
■住居学科での25年間を省みて-飯尾昭彦先生より
平成2年4月よりこの3月まで日本女子大学住居学科教員として25年間お世話になりま
した。住居学科で教育・研究に携わった25年間の印象を簡単に述べたいと思います。
住居学科に来て最初の印象は、想像以上に優秀な学生が多く、また、真面目に真剣に取
り組む学生が多いと感じました。さすがに、社会で活躍している人を多く輩出している伝
統ある学科だと思いました。ただ、その後建設業界の低迷や建築学科(共学)志向などに
伴い全体的な学生の質は下降気味なのは残念ですが。
女子学生を指導するということには意外と早く馴染みました。学生たちは身内であるよ
うな感覚が湧き、男子学生に対してはそのような感覚はなかったので不思議なものです。
女子大に向いていたのでしょうか。
研究・教育面に関しては、「建築環境・設備」の分野を担当しました。都市・建築から
人間の身の回りや生活環境まで多くの問題を抱える非常に広い分野です。この分野の担当
は私一人でしたので、環境・設備に関するテーマを幅広く受け持ち、住居学科で指導した
卒論生は339名に上ります。
研究テーマとしては、一つのテーマを一貫して追求するというよりは、その時代の社会
的要請や課題に合わせたテーマ、またいろいろなプロジェクトに参加するなど、多くのテ
ーマに取り組んできました。そのために、研究成果の集大成としてまとめるということは
できませんでしたが、学会・社会活動や研究成果についてはいくつかの賞を頂くなどそれ
なりの評価を受けることができました。就職面も含め日本女子大学住居学科のために少し
は貢献できたと思っています。この点に関しては、各年度でそれぞれのテーマに取り組ん
で成果を上げてくれた学生たちの努力のお陰でもあると、この紙面を借りて御礼申し上げ
ます。
ただ、11年前に脳内出血で倒れてからは学生の指導に至らなかった点があったことは否
めないので、この点は申し訳ないと悔やまれます。健康の重要性をつくづく知りました。
最後に、住居学科ならびに日本女子大学を取り巻く環境は厳しい状況が続きますが、こ
れからのますますのご発展ならびに皆様のご健康とご活躍をお祈りいたします。
日本女子大学住居学科での有意義な25年間を有難うございました。
■退職にあたって-鈴木賢次先生より
2015年3月をもって定年退職をむかえました。日本女子大学の建学の精神「自発創生」
、「信念徹底」、「共同奉仕」に何時も勇気づけられてきました。日本女子大学には男尊
女卑の不平等な逆境を乗り越えてきた歴史があり、本学出身の卒業生たちの歩みこそ、そ
の原動力であったことを身近に受け留めることができたからです。住居学科での学びの対
象は人間生活の場が基本になっています。住まい手の立場を掲げて、造り手の立場を向こ
うにまわし、社会に立ち向かう力を育んできたと思っています。
私はこれまでに、建築専門雑誌の編集、歴史的建築の調査・保存修理事業、江戸時代の
武士住宅、平安・鎌倉時代の寝殿造住宅、さらにイギリスの郊外住宅の研究も行ってきま
した。専門分野は建築歴史ですが、建築デザイン論や、保存再生にも携わってきました。
手広いようですが、常に注目してきたのは、住居を主軸にして「ものづくりの工夫」でし
た。
住居は、人類の歴史、地球上で、様々な事象が展開されて現代に至っているわけですから
、古今東西に通じて、常に広い視野が求められます。各地の歴史的な住まいを見ると、地
域の特色を反映した住居が多数現存しています。日本や、世界の時間と空間を旅すること
で、個性的な集落や民家に向き合って、その英知を探りたいという思いがあり、視察と調
査の旅を続けてきました。
現代はグローバル化がキーワードになっています。これは近代化、欧米化の流れが中核
にあり、とくにアメリカ化を見ることが多いように思えます。日本も、この道を歩んで今
日に至りました。なお、日本には伝統と異文化(列島と大陸、和と洋)を両立させ、統合
させてきた歴史があります。和風住宅に見られる座敷の魅力が薄れたわけではありません
。和風を生かす道は幾通りもあると思います。卒業生の皆様、グローバル化の中、日本の
伝統文化が健在であることを、住まいから示せるような活動に期待しております。