嬉しいお知らせです。
佐藤由紀子さん(39回生)が主宰するF.A.D.S(一級建築士事務所藤木建築研究室)が基本設計に関わられた、プロジェクトが2021年度の日本建築学会北陸建築文化賞を受賞しました。
おめでとうございます。
詳細は建築学会発行の『建築雑誌』7月号P73に掲載されています。
佐藤さんより計画の概要などを伺いました。
とても魅力的な手法で地方再生に取り組まれています。
小さな漁村に旅行者を
2018年冬、
志積は山を背に北側に小さな浜辺を抱えた人口50数人、 10数世帯の静かな環境の集落ですが、コンビニもお店もない、 5分もあれば徒歩で村を横断できるほどの場所です。 たとえ交付事業に採択されて1軒の民宿ができても建築単体ではい ずれ村は衰退し、補助金も無駄になるような気がしました。 何かこの土地ならではの観光のあり方を模索する必要を感じました 。
「迎え入れ」の発想で再生 ~アルベルゴ・ ディフーゾ~
そこで、私たちはアルベルゴ・ ディフーゾというイタリアの概念の導入を小浜市と事業者に提案し ました。アルベルゴ・ディフーゾとはGiancarlo Dall’Ara教授が提唱した集落再生の試みで、「 分散している(Diffuso)宿(Albergo)」 という意味です。 一般に大型ホテルはひとつの建物で旅が完結しますが、 アルベルゴ・ディフーゾはレセプション、宿泊施設、レストラン、 お店など、 ホテルの構成要素を因数分解してリノベーションした空き家に分散 させる考え方です。 旅行者が暮らすように地域を行き交うため宿泊客のロングステイを 促し、地域には活力を与えることになります。「おもてなし」 というより「迎え入れ」の発想です。
山と海のある静かな環境、 車が往来しない歩いて回れる路地のまち、 住民の顔が見える漁村の暮らし、海の眺望、 プライベートビーチのような海水浴場、太陽が沈む海、 蛸漁やふぐ漁などの漁業体験と料理。。。。
特段の観光スポットがないことを逆手に取って旅人を志積の暮らし に溶け込ませることができれば、 日常の地域資源を魅力ある観光コンテンツに転換できると直感的に 感じました。その為には新しく建物をつくるのではなく、 村の空き家を活用して一つづつ手を加えていく事が最適と考え、 既存建物の改修に切り替える事を提案しました。
アルベルゴ・ディフーゾはまさに志積にマッチする考え方であり、 補助金採択の要件である魅力ある「農泊」 も実現できると市や事業関係者に説明すると、 一瞬で合意に至り基本構想がまとまりました。
極寒の中で計画開始
この構想に基づき、 基本計画では集落の中で候補となる既存建物を具体的に探し、 オーシャンビューの平家と隣接する2階建ての小さな戸建住宅をそ れぞれレストラン棟、宿泊棟とすることに決め、実測調査( 2019年の正月、暴風が吹く極寒の調査でした(*_*)) をおこなった上で既存住宅の図面を書き起こし、 基本計画の提案を行いました。 できるだけ既存建物を活かして街並みに調和させること、 内部の機能や眺望などの快適性は確保することのほか、 2棟の完成後も宿泊棟を増やしたり物販棟やカフェなどの機能を増 やせるよう、 リノベーションに適した建物も選定し提案しています。
ロングステイの拠点が誕生
結果、 令和元年度の農山漁村振興交付金に応募した全国の事業者の中から 選ばれた4プロジェクトの交付事業団体の一つに採択されました。 宿泊棟は2020年6月、レストラン棟が8月に完成し、 北陸建築文化賞を最高得票で受賞するに至っています。 私たちが提案した基本計画に沿った形で計画が実現し、 それが高い評価を得られたことは関係者として大変嬉しいことです 。
実は私たちは、 基本計画時にもうひとつ踏み込んだ提案を行っています。 志積周辺には綺麗な海水浴場を持ちながらも交通の便が悪い小さな 漁村が点在しています。車を利用しない旅行客を呼び込み、 小さな複数の村々を訪れてロングステイの需要を喚起させる、 マイクロバスのような交通機関の運行を実現することを提案しまし た。
小さな村から提供される新しい旅のスタイルを私たちは今後も見守 っていきたいと思います。
★佐藤さんが携われたプロジェクトで誕生した素敵な宿泊施設「海のオーベルジュ 志積」、是非チェックしてみてください。
公式Webサイト
https://www.shitsumi.com/
2022年9月広報係