第23回住居の会奨励賞  中村有理沙さん(60回生)

2021年度住居の会奨励賞は、中村有理沙さん(60回生)に決定いたしました。
受賞された 中村さんには、2022年7月(予定)の総会にて、プレゼンテーションいただく予定です。

シアトル市近郊にある「ベインブリッジ島日系アメリカ人排除記念碑』にて。米国国立公園局と共に制作した教材を持つ中村さん。

中村さんの活動テーマは、『ワシントン州日本文化会館』です。

ワシントン州日本文化会館は、シアトル日本町、および日系の歴史や文化を伝えるのが主な仕事です。中村さんはそこでスタッフとして働く一方、フリーランスとして、北米日系人をテーマとした漫画、教材、地図などを制作していらっしゃいます。常に多様な文化的背景を持つ人々の共生、人の心に触れるまちづくり、「エコロジカルデモクラシー」の実践を目指している、とのことです。

ワシントン州日本文化会館(JCCCW)常勤スタッフでもある中村さんは、日系の歴史や文化を伝える広報・企画・デザインを担当。写真は、こどもの日に合わせて開催された無料漫画ワークショップの様子。(2018年。撮影:Kurt Tokita)

活動の背景と目的

シアトルに日本人が移住をするようになってから130年以上経ちますが、その歴史はあまり広く知られていません。
ワシントン州日本文化会館』の主な目的は主に二つあります。第一に、日系の歴史と文化を伝えると言うことです。特に日系の歴史は、いわゆる教科書に載らない歴史であり、また見えにくいのです。有色人種への差別、強制収容、日本町の衰退、戦後のコミュニティー再生までに至る130年の歴史を日米、そして世界の人々に届けたいと考えます。

第二に、人の心に触れるまちづくり、「エコロジカルデモクラシー」(エコデモ)の実践である。エコデモの理念の一つである「人・社会に寄り添い生活空間を豊かにする活動」を考えるとき、私はマイノリティー社会の歴史や文化の空間を考える。まちの中に点在する「大切な場」を発見し、残し、伝える活動を続けていきたいと思っています。

これまでの活動と、今後の活動予定
ワシントン州日本文化会館(JCCCW)は2008年に開館し、現在13年目になります。毎年開催される、一般向けの日系の文化イベント「子どもの日」「文化の日」には、それぞれ700—1000名が訪れ、同会館が運営するアメリカ本土最古の日本語学校には現在、合計300名近くが通っています(オンラインクラスを含む)。

シアトル日系一世の人々とシアトル日本語学校。アメリカ本土最古の日本語学校であり、ワシントン州日本文化会館は同校舎にオフィスを構える。

中村さんがマーケティングの仕事を始めた2017年に、約200名であったJCCCWのインスタグラムのフォロワーは800名近くまで増え、また同館内にある日本の物再販店「宝石箱」のインスタグラムフォロワーも約300名から約1,100名まで増えました。ソーシャルメディアの活用により、若い世代・多様コミュニティーに会館の情報を届けることができるようになりました。

同会館では様々なプログラム、クラス、ツアー、展示、販売スペースがある。写真は、大人気の「宝石箱(Hosekibako)」。地域の方々から寄付して頂いた日本の陶器や着物、扇子などが再販され、収益は全てJCCCWのプログラムに活用されている。

また日本語での情報発信を増やしたことで、日本人の来館者も徐々に増え、2020年にはJICA横浜・海外移住資料館の多大な協力を得て、同会館の歴史を伝える常設展「シアトルのハントホテル -日本語学校の知られざる歴史1945-1959-」の日本巡回展が実現。
コロナ禍という制約の中、シアトル日本町の歴史を伝えるオンライン講座も開催され、中村さんはスピーカーとして参加。
日本全国から満員80名の方々の参加がありました。中村さん個人としては、戦後に渡米した新一世として、コミュニティデザインを学んだ者として、地域に貢献をすることを目指されてきました。「日系アメリカ人ゆかりの地ガイド」は、見えにくい日系の歴史と町並みを理解するガイドマップとして全米の人が使っています。「ベインブリッジ島の日系の歴史を伝える教材」は、シアトル界隈で最初に収容された人々の歴史を、特に未来を担う子どもたちに学んでもらうためのものです。そして連載中の漫画「新一世日誌」では、日本からの移民としての体験を二か国語で描き、日本国総領事館からも評価を頂いているとのことです。

中村さんが連載する漫画。2019年より月二回、米国北西部最古の日本語新聞・北米報知にて連載中。
シアトルにある40カ所以上に及ぶ日系アメリカ人ゆかりの地を紹介するガイドマップ。
地元の博物館と米国国立公園局と協力して制作され、中村さんはデザインを担当。日英両語対応。

選考結果
〇奨励賞決定
中村有理沙さん テーマ『
ワシントン州日本文化会館
ワシントン州日本文化会館:https://www.facebook.com/JCCCW/

中村有理沙さんの活動:https://www.arisan-artworks.com

その他の応募者
井上明日香さん テーマ『経堂アトリエ』
https://kyodo.atelier-inoue.jp

今年度は2つの応募がありました。どちらの活動も大変すばらしい活動でした。
応募された皆様の益々のご活躍を心より期待しております。


◆三木会長のコメント

長い移民の歴史に遡りながら、戦後76年過ぎた今日でもなお根深い問題に取り組み、奮闘している中村さんの活動が受賞しました。外国人雇用体制を整えつつあるわが国でも、この活動から学ぶべきことが多くあるように思います。
また、一見対照的な2つの活動ですが、地道な地域活動とコミュニケーションを通して、相互理解を深め、よりよいまちづくりを目指す点では共通しているように感じました。
お二人の活動を今後もHPやメルマガに掲載し見守っていきたいと思います。


中村有理沙さんからのメッセージ

この度は、2021年度住居の会奨励賞を授与していただき誠にありがとうございます。 大変光栄に思うと同時に、身の引き締まる思いです。 何よりも、ワシントン州日本文化会館の皆様のご指導、ご協力に心より感謝申し上げます。 今回の受賞を励みに、先人の苦労に思いを馳せながら、より日米間の深い友好、相互理解、 そして交流が促進される一助となるよう、今後も取り組んで参りたいと思います。

中村有理沙(Arisa Nakamura


◆ワシントン州日本文化会館 事務局長 カレン・吉富さんからのメッセージ

村有理沙さん、奨励賞の受賞おめでとうございます。ワシントン州日本文化会館の日本での架け橋となってくださり、有難うございます。

日米間の友好および交流の増進につながる、あなたの功績が認められた事を嬉しく思います。

ワシントン州日本文化会館 事務局長 カレン・吉富(Karen Yoshitomi