第10回住居の会奨励賞

img10-3谷口麻里子氏(47回生、院20回生)
タニグチアトリエ
(統括:株式会社ハル建築研究所)

医療法人幸善会前田病院 設計・監理

目的
病院設計では、医療分野特有の制度、設備、性能が重視され、さらに生命の危機に直結するが故、管理側の勝手が優先され、患者側からみた「住まい」としての環境が著しく欠如している。特に素材、寸法、ディテール、色彩・・・といった意匠・計画面において。最新設備やバックヤードの細やかな計画とはうらはらに、患者側にはスケールアウトした部屋・家具、冷たい素材が並んでおり、その様は工場のようでもある。
病院は患者にとって一時的とはいえ大切な「住まい」である。病院という既成概念にとらわれず、制度や効率化などにより失われた、もしくは欠如した「住まい」としての根幹的な環境、快適性を見直し、取り戻すことを目的としている。

img10-4具体的な活動内容
佐賀県伊万里市の医療法人幸善会前田病院は、総病床数129床のうち89床が療養病床。患者の在院期間は数ヶ月にわたる。高齢化が進み医療制度が変遷する中、市街地及びその周辺に散在する本院・分院・腎センターを一箇所に機能統合し、地域医療を担うことを目的として新病院プロジェクトがスタート。私は、医療福祉建築の計画、コンサルタントを多数手がけるハル建築研究所統括のもと、意匠・計画担当として参画した。
計画地は、緑があふれる伊万里市街を一望する高台に位置する。建物は、手前に平屋の外来棟、奥に3層の病棟からなり、敷地高低差を生かした接地性の高いものとなっている。外来棟は、地域健康文化の拠点として誰もが集うことができる「地域の広場」となるよう、総合待合ホールとそれに連続するセントラルパークを中心に計画した。病棟は、「最後の時をここでなら・・・」と思える病院を目指して、療養病床すべての個室化と、ユニットケアの導入に踏み切った。そして「拘束しない」「口からモノを食べる」「オムツをはずす」といった人間としての尊厳に対する強い思いを持った病院スタッフらと、「住まい」としての適切な環境を訴える当方らの信念を融合させるべく、数十回にわたる関係者ヒアリングや病院スタッフ全員の現場見学などを経て、2007年8月にリニューアルオープンした。
竣工1年が経つ現在、家族の見舞いが増え、その在院時間も長くなったという。また病院主体の健康フェア、ロビー音楽会、夏祭りなどのイベントが積極的に行われ、医療のみならず文化活動においても地域活性の拠点となりつつある。

本件をはじめ、個人住宅、集合住宅、ホテルなど住まいの環境、快適性を必要とする建築設計を続けている。
他活動では東京大学大学院工学系研究科設計スタジオ指導官、スキーインストラクターなど。

タニグチアトリエ
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