『現代四合院』
=東京の地に生む“現代版”『四合院』の集住体
コンセプト
『四合院』
【01】シンプルなプランにより容易に大規模化でき、一住居形式『四合院』が単純にも連なることで街並み形成へと繋がる流れ。
『四合院』:この住居形式をもって、
一「住居」は連なり、
一「街並み」=『胡同(フートン)』となり、
一「都市」=『北京』を形成する。
【02】中庭は屋外の一室として、そこで展開される生活行為は無限である点。
【03】外に対して閉鎖的とされる中庭型住居でありながら、『四合院』の連なりで形成される街路こそ『胡同(フートン)』の味わいとされ、『四合院』が外の“みち”づくりにも一役かっている点。
『現代四合院』
【01】この住居形式をもってすれば、
一「住居」は連なり、
一「集住体」となり、
一「街並み」を生み、
一「都市」=『東京』を形成できる。
【02】多住居で一つの中庭を囲い、各住居2層以上の展開とし、中庭を介した立体動線を生む。
内なる廊を持つ“玄関”を持たないプランにより明確な動線を確保し、ランダムな中にも、各住居が中庭を介して 生活することを可能にする。
中庭より、各住居の内なる廊を通り、各個室へ直接アクセスできるプランでもあり、これからのSOHO等の個人を重視した住居への可能性を秘める。
【03】敷地の特性を生かした上で、『現代四合院』の連なりより生まれるRoadと呼ぶ街路とPathと呼ぶ小道の二つの異なった性格を持つ“みち”により、目白通りと都電の鬼子母神駅とを繋ぐ。
選定会委員長より 選定委員長 井爪喜久子
第2回林雅子賞は、「現代四合院 -藤井洋子さん」に決まりました。選定会に参加した一員として、経過と印象を記させていただきます。
今年から、学生からの公募という形としましたが、卒業制作17点中、9点(当日1名欠席)応募という、積極的な参加を得ることができました。模型とパネル化した図面を前に、今回はパソコンを使用してプレゼンテーションが行われました(各8分)。卒業製作は都市計画を含め、それぞれにテーマも表現手法も異なり直接の比較ができないため、順位をつけるのは難しく、僅差による決定になりました。
受賞作の「現代四合院」は、現実にまとめあげるにはほど遠いこと、四合院と作品との関係が曖昧であることなどの批評はあったものの、中国に滞在した経験からのテーマ発想であったことや、中層住居への果敢なアプローチが現代社会に対する問題提起であること、個性的なデザイン展開への可能性が予感できること、などの評価があげられました。
その他のそれぞれの作品も、環境との密接な関係からアプローチを試みたり、困難な実態調査をバックデータとして空間構成したり、建築に向き合う真摯な姿勢がみられ、それぞれ記憶に残る力作でした。
今回は、構造を含めた作品単体の実現性や空間性よりも、建築を通して現在の居住性の問題に取り組んだ作品に対しての議論が多かったようです。
勇敢な取組みであるにも関わらず、建築雑誌で見受けられる表現や形態が魅力を損ねてしてしまった残念な作品のいくつかも気にとまっています。林雅子さんのかねて建築作法であった「建築が建てられる場所と環境の観察力」「空間の基本的な構成力」に加えて、生前に懸念されていた「流行現象に流される建築は陳腐であり、建築本来の姿を追求する」という姿勢が各委員の意識にあったのではないかと感じています。
選定員である林昌二氏が「先日拝見した東大の卒業製作にも引けをとらない水準だと思います。大変有意義な時間を過ごしました」とおっしゃったこと。さらに、昨年の受賞作である森山ちはるさんの「ヤマユリソウ」が実際に完成したことが話題にのぼったときに「それはぜひ見に行かなくてはなりませんね」と嬉しそう話されていたことを、ぜひ皆さんにお伝えしたいと思います。
今後ますます林雅子賞が学生たちの励みになるように発展していくことを期待しています。
(選定委員長 井爪喜久子(KI一級建築士事務所 7回生))