第8回 林雅子賞 『ハジマリの塔-京島プロジェクト-』 石倉彩子

開催日: 2010年2月20日(土)
選定委員: 委員長 伊東豊雄(株式会社伊東豊雄建築設計事務所)
塚本由晴(アトリエ・ワン 東京工業大学大学院准教授)
乾久美子(乾久美子建築設計事務所)
林 昌二(建築家)
平田京子(住居学科准教授)
加藤仁美(27回生 東海大学専任教授)
会場: 日本女子大学 新泉山館1階 大会議室

第8回林雅子賞pdf

第8回林雅子賞選定会ご報告

2月20日(土)日本女子大学新泉山館1階大会議室を会場とし、選定委員長に伊東豊雄氏、選定委員に塚本由晴氏、乾久美子氏、林昌二氏、平田京子氏、加藤仁美氏をお迎えして第8回林雅子賞選定会が行われた。
今回の応募は17作品(内、修士制作2作品)、当日の見学者は、総勢160人となり大変盛況な会となった。応募者17人全員のプレゼンテーションと質疑応答の後、白熱した第1次・第2次審査を経て、林雅子賞、4つの選定委員特別賞が選定された。今回林雅子賞は林昌二賞とのダブル受賞。また伊東豊雄賞は、2名が受賞した。

林雅子賞受賞者の石倉彩子さん、喜びのインタビュー

審査委員長の伊東豊雄氏より

林雅子賞・林昌二選定委員特別賞 石倉彩子さん「ハジマリの塔-京島プロジェクト-」
密集市街地京島にコミュニティ単位(30戸~90戸)を想定して塔(日の見櫓)を建て、足元で洗濯といった生活行動を行なう。そこをハジマリとして、その周りに、徐々にコミュニティが構築され、地域の色合いが出来てゆくという提案。
「伊東先生の無用のカプセルから30年たって後継者が出たと感じた。塔が無用だからこそ、コミュニティで維持管理できそうだ。」というコンセプトに対する塚本氏の高い評価があった。
また、選定員特別賞を贈った林昌二氏は、「普通の建築の概念を超えている。100年200年後、光を出す。地下の亡霊が光を放つのではないかと感じられる作品だ」とSF的なストーリー性を評価。

伊東豊雄選定委員特別賞 田中絹子さん
「ベジタブルライフノススメ-豊島市場の再生計画案-」

b01

豊島市場をあらたな機能を持たせて再生する計画。屋上の利用、実験農場、提案型のレストランの併設とソフトも含めた食にこだわる企画案。周囲の施設への集客との相乗効果を狙った動線計画、防災拠点としての役割も持たせる提案。
最もリアリティのある提案で楽しそうであると伊東氏が評価。塚本氏の住宅の中に市場を作るという視点ヘの評価や食と生活と地域とをつなげる可能性があるという加藤氏の評価も集めていた。

伊東豊雄選定委員特別賞 青柳有依さん
「都市と地域の狭間で-駒場からみる地域に求められる集合住宅-」

b02
建替えの迫っている住宅をピックアップして複数のアパートにまとめ地域を作る提案。居住者を定住層(1階)と流動層(2階)としてプランニングし、その間に生まれた狭間をコモンスペースとして機能させる集合住宅。画一的になりつつある都市の中で、地域の中に個性を求め、都市より暖かく家族より軽いものを模索する。
伊東氏からは地域の人と若い人が上下の小さいスケールで向かい合うのは珍しいプランであり、間の空間はうまくできていると評価され、平田氏には住まいを人間から考え、どう社会に影響をしていくかといった視点で捉えた提案であり住居学科らしい提案であると評価された。

塚本由晴選定委員特別賞 宮内礼子さん
「森の銀河」

b03
代官山に程近い、緑豊かな社宅跡地。そこにある樹木と樹木との関係性から編出した手法で樹木にやさしく支柱を配置し、全体を膜で覆う。外からは森を感じさせ、内側ではその陰影で樹木を感じながら読書が行えるスペースを生み出す。樹木とともに生きる建築の提案。
塚本氏は図書館という用途は疑問だが、計画に鮮やかさが感じられ、感覚的に優れていると評価された。伊東氏からは計画手法、建築の配置の仕方が冴えていて論理的で美しいと評価され、乾氏からも基本設計だけでなく、工法まで踏み込んでいる点が評価された。

乾久美子選定委員特別賞 山西加奈子さん
「ゆらゆらゆれて」

b04
目白通り沿いの4m間口の町並みを、町の履歴として引き継ごうと、その間口を守りながら設計された集合住宅。都市での住まい方を提案。
乾氏からはコンセプトである4m間口からのスタート、4mを生かして細かいスケールで設計できている点が評価された。

以上の受賞作品以外にも、院生のルイス・カ-ン研究に基づく図書館設計に対して選定委員の先生方によるカ-ン論が展開されたり、真面目にメモを取りまくる院生に対して「猛烈にメモってますね?!もっといい加減にやったほうがいいよ」というアドバイスがあったり。実に興味深く楽しい選定会であった。
先生方の総評では、日常生活の中の気付きから設計がスタ-トしている点、生活者の視点での設計など、日本女子大学住居学科ならではの設計姿勢に対して、大変好意的に暖かいお言葉を頂いた。その一方で、デザイン性に関してはまだまだ修行が足りないと厳しい指摘も。
たくさんのいただいたアドバイスを糧に、参加者が更なる精進を積んでステップアップしていくことを、住居の会としても多いに期待したい。

選定会が盛会のうちに終了できましたこと、ご協力いただいた皆様に心より感謝申し上げます。特にお忙しい中、選定委員長を務めてくださった伊東豊雄氏をはじめ、塚本由晴氏、乾久美子氏、林昌二氏、加藤仁美氏、平田京子氏の選定委員諸氏に厚く御礼申し上げます。また、住居学科の先生方をはじめ、関係者皆様のお力添えにもこの場を借りてお礼申し上げます。

(HP係:加藤、浜崎、崎田)

選定委員長より  選定委員長伊東豊雄氏

林雅子賞審査の感想
最近卒業設計のあり方に疑問を抱いている。各地で開催される卒業設計コンクールの展示作品を見ていると、プレゼンテーションの大仰さに対して内容が空疎であることに唖然とする。CGテクニックの進歩によって、ドゥローイングは素晴らしいのだが、中味を読み込んでいこうとすると愕然とすることが実に多い。
それぞれに都市や社会への提案をしているつもりなのだろうが、そのほとんどが建築関係者にしか通用しない「建築家的」視点からの作品なのだ。現代建築のファッショナブルな表層のみを取り込んで自己の提案に置き換えているからである。
そんな昨今「林雅子賞」の審査に携わり、さわやかな好印象を持った。多くの作品が華やかではないが、等身大で都市や社会に向かい合い、作者の素直な気持を表現しているように感じたからである。
時代とともに建築思想や表現が変わっても、この大学だけは一貫して「身近な住生活」を根底に据えて建築を考えることに固執してきた。故林雅子氏や小川信子氏、故高橋公子氏等が築いた思想を後輩達が地道に守り続けてきたからであろう。
林雅子賞の石倉彩子さんの作品を初めとして、入賞作はいずれも表現技術は素朴だが、作者と作品の間のギャップを感じさせない点に心地良い印象を持った。
また審査員の一人として最後まで貴重なコメントをして下さった林昌二氏にも深く感謝したい。