第9回 林雅子賞 『つなぐみちのいえ』 山田美貴

選定会開催日: 2011年2月19日(土)
選定委員長: 西沢立衛(西沢立衛建築設計事務所)
選定委員: 千葉 学(千葉学建築計画事務所)
宮 晶子(STUDIO2A 36回生)
林 昌二(建築家)
会場: 日本女子大学 新泉山館1階 大会議室

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第9回林雅子賞選定会ご報告

去る2月19日(土)日本女子大学新泉山館1階大会議室にて、選定委員長に西沢立衛氏、選定委員に千葉学氏、宮晶子氏、林昌二氏をお迎えして、第9回林雅子賞選定会が行われた。この会の冒頭、林昌二氏より「この林雅子賞がこれからも継続されていくことがとても重要と考え、ますます大きくなっていくことを望みます。そして世界に羽ばたく建築家が輩出されていくことを期待して止みません。」とご挨拶があった。(その後、林氏は体調を考慮して退席された。)
今回の応募総数は13作品、選定会場には大勢の見学者が集まり大変盛況な選定会となった。今回も応募者全員のプレゼンテーションと質疑応答、各賞選定まで審査過程を公開で行った。一次審査で5作品に絞られ最後まで混戦模様だった二次審査を経て、以下のように林雅子賞が1作品と、各選定委員による選定委員特別賞の3作品が選定された。

・林雅子賞 山田美貴さん
「つなぐみちのいえ」
かつて住.工.商という異質なものが混在しながらも共存が成り立っていた川口市本町。しかし近年の宅地化の進行により、高層マンションが次々と建てられ、再開発によってかつての調和のとれたコミュニティが生れにくい街となってしまった。今後再開発が予想される工場跡地の一区画を計画敷地とし、この街の人々のコミュニティを結びつけていた「路地」の機能を建築的に再構築し、周辺との関係をつなぎとめていく集合住宅を提案する。
都市の中での問題点をするどく分析し、明快に答えていたプレゼンテーションに大変心を動かされた、と選定委員共通の高い評価を得た。千葉氏からは既存の袋小路を残しながら計画を進めたら更に良かったのでは、西沢氏からは住.工.商を混在させる計画もあるのでは、とそれぞれ前向きな指摘もあったが、スタートからゴールまでのストーリーが完結して表現しきったところに共感できる、と宮氏の評価を得て林雅子賞受賞に至った。

・西沢立衛選定委員特別賞 加藤悠さん
「RIBBON-そのまちの風景は-」b01
いまだ手つかずのエリアが残る場所、私たちにも愛着のある雑司ヶ谷に美しくランドマークとなるような、風景に溶け込む雲を思わせる建築を提案する。高低差が10mある敷地にメディアスペース、地域の人々のための交流施設、ジム、屋外施設などを配置し、地形に対してやわらかい屋根をかけた作品。
「いろいろな領域ができていい提案ではあるが、その一方でどれくらいこれを意識して作ったのかには疑問を感じる。」「風景の説明には好感が持てる。ただ実際に建てる施設を考えると評価しにくい。」という千葉氏、宮氏の厳しい意見もあったが、最終的に選定委員特別賞を贈った西沢氏は「スケールの大きさ、単純さに魅力を感じる。昔はどうであったか、これからの使い方も完全に理解できた訳ではないが、のびのびと作っているところに共感が持てる、いい作品である。」と設計への積極的な姿勢を評価している。

・千葉学選定委員特別賞 千葉香子さん
「都市における多文化融合の住まい-KAGURAZAKA COMPOUND-」

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「浸食と共生 異なる性質を持つ者同士がまざりあい浸食する」をコンセプトに外国人向け居住群であるI-HOUSE(インターナショナル-ハウス)と地域に開かれた公共施設、商業施設が寄り添う空間を提案する。神楽坂の路地空間の構造的な面白さを敢えて取りのぞき、これからの新しい道はこうだという自らの主張を、不思議空間を持つ建築に託す。 「敷地に対し45度の角度を持たせて建物を配置したことを評価したい。しかしながらその敷地の四隅をカットしてしまったことは、ランドスケープとして面白さを生み出す可能性があるだけに残念さが残る。」という西沢氏の意見もあったが、「卒業設計としていけるところまでいってしまう、という勢いが感じられる作品。敷地選定や配置に疑問も残るが、社会的な問題を建築の問題にしていこうというところに共感できる。」という千葉氏の評価を得ての特別賞受賞となった。

・宮晶子選定委員特別賞 伊東加恵さん
「小さな家」

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土着民族の集落に興味を持つうちに、ネイティブアメリカンのティピー(テント)に出会った。同じ部材で多様な空間を作りあげている面白さを生かして、都市(高密度)と森山(低密度)におけるそれぞれの囲み(円)を提案する。
独自の設計理論を持ち、概念的なアプローチをしている異色な存在だと思うが、卒業設計ならではの想い入れや勢いがあって共感できる、と選定委員共通の評価を得た。楽しそうに説明する姿に、選定委員から「こんなに嬉しそうに話す人を見たことがない!」と思わず声が上がるほど、設計に対する想い入れが覗えた。建築的には、都市における個と集の関係が曲線の壁で提案しきれていないなど、やりたい原型が曖昧になってしまったが、果敢に取り組む姿勢に個人的には賞を差上げたい、という宮氏の評価を得ての受賞となった。
上記の受賞作品以外にも、コンバージョンによる地域再生、森や遠郊外に住まう住宅の提案、帯を分岐させて派生した建築空間、シングルマザーのための集合住宅等々、広く自由な着眼点から取組んだ力作が揃っており、大変見応えのある選定会となった。
選定委員の先生方の総評では、全体的に設計に対する姿勢が素直で真面目であること、自分がよいと思っていることと表現した建築が結びついており、等身大でとても自然な感じを受けた、と好感を持って下さった。
かつて林雅子先生からエスキスの指導を受けた経験のある千葉氏は、荒々しいダイナミックさと丁寧な優しさが同居している林先生の設計に大変感銘を受けたそうだが、今日その片鱗を垣間見ることができ、日本女子大の伝統として受け継がれていることに感動した、とエピソードを交えてお話して下さった。
卒業生でもある宮氏からは、等身大で取組む姿勢、思い切りのよい発想と細やかな配慮のある設計に住居学科らしさが表れていて方向性としては共感を覚えるが、敢えて言うならもっと大胆にはじけてオーバードライブしてもいいのでは、はみ出してもいいのでは、まだまだできる力があるはず、と期待をこめてエールを送ってくださった。
たくさんの貴重なアドバイスを糧として、参加者が自らの可能性を信じて前向きに取組み、更なる成長をとげられるよう、住居の会としても多いに期待し応援したい。

選定会が盛会のうちに無事終了できましたこと、ご協力いただいた皆様に心より感謝申し上げます。特にお忙しい中、選定委員長を務めてくださった西沢立衛氏をはじめ、千葉学氏、宮晶子氏、林昌二氏の選定委員諸氏に厚く御礼申し上げます。また、住居学科の先生方をはじめ、関係者皆様のお力添えにもこの場を借りてお礼申し上げます。

(記:HP係飯島、神澤)

選定委員長より  選定委員長 西沢立衛氏

全体の印象としては、どの案ものびのびとしていて、等身大のものを提案しているように感じられ、非常に共感しました。アイデアコンペや、卒業設計全国大会などの審査に参加すると、非常にレベルの高い案を多く見ることができますが、それらの多くは技巧的というか、コンピューター的で、または入賞と賞金を目標とするようなドライなものが多く、巧みさに感心はしても、建築的な感動というものはあまり感じられません。しかしみなさんの今回の卒業設計は、誰もが楽しそうに、自分の等身大の感覚の延長として建築を作っていて、素晴らしいと感じました。一人や二人がそうなのではなく、みんなにそういう雰囲気があるということは、個々の力もさることながら、大学の雰囲気や伝統が素晴らしいのだろうと思います。
また多くの案は、建築の計画だけに留まらず、地域計画やタウンプランニングまでにも広がりうる視野の広い計画になっていて、また、社会との連続が考えられている案が多いのも印象的でした。自分の身近な感覚、素朴な気持ちから話は始まって、空間を作り、建築になり、都市になっていくという、人間と建築・都市の連続性があること、自分の感覚で大きなことまで考えられるいうことは、たいへん重要なことだと思います。これからみなさんが進んでいくであろう大学院や就職先でも、その調子でのびのびと、自分の言葉で、建築や都市や我々の社会、生活を、楽しく開放的に考えていってください。

西沢立衛