第4弾 旧朝倉家住宅見学と代官山散策

「旧朝倉家住宅見学と代官山散策」に参加して

去る2月24日、昨年度4回目となる見学会「旧朝倉家住宅見学と代官山散策」が催されました。曇天で真冬の底冷えの中25名余りが参加され、藤井恵介先生の詳しい解説のもと皆様熱心に見学されました。

旧朝倉家住宅
旧朝倉家住宅

藤井恵介先生は東京大学教授で建築史及び建築保存ご専門で、奥様は住居学科の28回生、今回の旧朝倉家住宅についてはBS朝日で解説案内をされています。

旧朝倉家住宅は国の重要文化財で、東急東横線代官山駅から徒歩5分程、ヒルサイドテラス等近代的で洗練されたビル群のすぐ裏手にひっそりと佇んでいます(後に、これらのビル群も元は旧朝倉家の敷地だったと知りました)。モダンな街並みから一転して純和風の大正時代の空間に引き込まれ、まずそのギャップに目を見張ります(びっくりぽん!)。
まず始めに1階の以前渋谷会議所と使用された時代の会議室に於いて、藤井先生から朝倉家とその周辺の歴史と概要についての詳しい解説を伺いました。

1階広間より庭を望む
1階広間より庭を望む

朝倉家は江戸時代開拓地主として渋谷に広い農地を所有し、その後当主朝倉虎次郎は政界に進み東京府議会長や渋谷区議会長を歴任しました。虎次郎が本宅として、大正8年猿楽町の南斜面を利用して建てたのが旧朝倉家住宅です。

終戦後建物と南側庭園が売却された後国有化され、大臣公邸や会議所として使用された後平成7年修理補修され、平成16年に主屋と土蔵が重要文化財に措定されました。平成18年に渋谷区が管理団体となり、現在では一般公開され、各国大使のお茶会等に使用されることもあるそうです。

終戦後に国有化されなければ結果的に今日このような姿で建物が保存されていなかったかも知れない、とのお話は印象的でした。

集合してお話を伺っていた1階の洋風の広間は、元は3室の家族の和室が会議室として改装されたもので、いずれはもとの和室に戻せるかも知れないとのことでした。

宅地には北側に主屋、西に土蔵、東に庭門、車庫があります。主屋は一部2階建ての主体部を中心に接客のための応接間、内向きの座敷や茶室など機能に応じた異なる意匠でまとめられ、土蔵は主屋に附随しています。

1階洋間〜戦前の典型的な洋室の造り
1階洋間〜戦前の典型的な洋室の造り

広間での藤井先生のお話の後、順番に公開されている部屋を見学しました。

玄関脇の洋間は、日々の商売等の来客の応対や執事の事務のための部屋です。

現在でもスムーズに開く木製サッシの開き窓、折上格天井、シャンデリアのための木製ブラケット部の美しい彫刻、一枚板を使った引違い戸など当時の立派な洋間の丁寧な造作を見ることができました。
次に向かった玄関脇の応接間は書院造りの和室で、桧柾目板を多く使用し長押が回り、襖や板欄間等には優美な日本画が描かれてまさに正統派と言える和室デザインです。

 

この正統派デザインがあるからこそ、これを崩した数寄屋デザインができると先生は仰っておられました。

玄関から離れた奥に位置する三つの杉の間はプライベートな空間で、応接間の正統派和室デザインとは一変して独特のくだけた数寄屋風デザインとなっています。

「うづくり」と呼ばれる、木を磨いて木目を浮き立たせる手法が多く取り入れられ、「板目」材を揃え磨く手間もかかるなど相当財力が必要だったようです。

特に南の部屋はあらゆる杉材の木目を「板目」で見せていて、先生もここまで板目で揃えた部屋は見たことがない、また「目が回る」といった人もあったと話して下さいました。

この個性的な和室で虎次郎は晩年を過ごしたそうです。

 

2階は構造的に広間が取りやすく、書院造りの和室が15畳、12畳半と二間続いています。

虎次郎が政治家として接待に使用するための部屋なので、財力を見せるため伝統的デザインで材料や細工など豪華に作ってあり、お手洗い、階段板戸に至るまで贅沢な造りです。

2階広間からは廊下越しに見事な庭園が見え、更に昔は富士山も美しく見えたとのことで、

先生は個人的に廊下の手すりは富士山をデザインしてあると思うと仰っておられました。

部屋の見学を終えて外に出てから集合写真を撮り、その後敷地南側の主庭を見学しながら敷地外へと出ました。

玄関前にて、藤井先生ご夫妻と参加の方々
玄関前にて、藤井先生ご夫妻と参加の方々

旧朝倉家住宅の庭園は大正時代の和風住宅に対応した貴重な作例で、主庭は斜面を利用して富士山や目黒川、田園風景を借景として望めるような構成になっていました。

三田用水から引用して流れと小滝を配し、石灯籠や景石を多用して、主屋から額縁に入った絵を見るような景観が意識されていました。

植栽は一部元の姿に戻っていないようですが一般公開のため庭門は復元され、歩いていくと変わっていく景色がそれぞれの場所で趣があり、季節が違うと一層木々が美しいのでは、と思われました。

途中、右手に立派な2階建の土蔵があり、内部の見学はできませんが外部の伝統的な意匠は見る事ができました。

旧朝倉家住宅の敷地を一歩出るとモダンな代官山のビル横で、まさに大正時代から平成へとタイムスリップしたようです。

 

その後蔦屋書店、おしゃれなショップやカフェを抜け、ランチをいただく「シェリュイ」に到着。美味しいお料理にスパークリングワインのサービスもあり、皆様大変満足の見学会になりました。