【開催報告】2021年秋見学会「明治以降、近代日本を動かした政治家・財界人たちの住まい・・大磯~」

11月26日「明治以降、近代日本を動かした政治家・財界人たちの住まい・・大磯~」と題して見学会を実施しました。コロナ感染予防対策として①飲食なし②少人数グループで見学③徒歩移動の3点を考慮した企画です。関東学院大学名誉教授の水沼淑子氏(住居26回生)に案内役をお願いし、12名の会員が小春日和の大磯を散策しました。

相模湾

大磯駅から東海道の松並木を見上げながら15分程歩くと「明治記念大磯邸園」に到着です。12:30集合、水沼氏から敷地内邸宅が建てられた背景や主の変遷、設計者などについてお話をうかがった後、3グループに分かれ大磯ガイド協会の方と邸園内を見学しました。旧大隈重信邸、旧陸奥宗光邸は外観見学でしたが、庭の豊かな緑と紅葉が青空に映え見ごたえがあり、また綺麗に磨かれた創建当時のガラス越しに室内をのぞき込み、大河ドラマの影響もあり明治の政財界人の交流の様子に思いを馳せました。増改築がなされているものの、主要な構造物が残っている歴史ある海浜別荘建築であるとガイドさんが説明され、旧大隈邸玄関が西隣の鍋島邸への忠義から西向きであることや、庭のクスノキの根がしっかり張っていたから震災に耐えられたとか、海水浴の後そのまま外から入る浴室など豆知識もいただきました。

大磯庭園 旧大隈邸

ほぼ1時間の見学を終え、改修工事中の旧伊藤博文邸跡(滄浪閣)と西園寺公望別邸を横目に見ながら進むと相模湾の海岸線の眺めが美しいこゆるぎ緑地にぶつかります。松の間からきらきら光る海を楽しみながら「大磯城山公園」に向かいました。ガイドさんの案内で美しい住宅の街並み(大磯松韻)への寄り道もあり40分程歩きました。

大磯松韻

城山公園は道路を挟み旧吉田茂邸地区と旧三井別邸地区に分かれています。水沼氏から解説をいただいた後、2地区に分かれ、見学を再スタート。三井別邸地区には木造耐震建築の研究者、久米権九郎設計の城山荘本館をはじめ数多くの建物がありましたが残念ながら多くが解体されてしまったとのことです。国宝の茶室「如庵」は名鉄犬山ホテルへ移築されたそうです。今回は如庵を模した城山庵を見学しました。有楽窓の竹の隙間からわずかな光が障子にもれ微妙な陰影を作り出し、とても美しかったです。天井の突上窓が開いていたらまた違う光の効果を体感できたかもしれません。古い暦を張った腰壁や床脇の三角形の鱗板など斬新なデザインを取り入れながら使い勝手も巧みに配慮し、端正で気品ある茶室は有楽斎の茶の考えが集約されており、現在の空間作りにも通ずる学びの多い茶室見学でした。

城山公園 如庵を模した城山庵

旧吉田邸地区では檜皮葺の兜門、池泉回遊式の庭園を確認し、邸宅に入りました。建物は2009年にほとんどが焼失し、2016年再建。金の間、銀の間、ローズルームなど近代数寄屋建築巨匠である吉田五十八が設計した増改築部分はほぼ焼失前の状態に復元されたそうです。引き込みガラス戸やはっかけの手法、モルタル塗りまわしの壁などの造作を興味深く見てまわりました。富士山が一望できる応接間(金の間)やアールデコ調で壁が皮張りの広い食堂(ローズルーム)などは、迎賓館としてまた大磯詣での政財界人を受け入れた戦後の宰相の大きさを感じました。

旧吉田茂邸
旧吉田茂邸 左:ローズルーム 右:金の間

16:20不動池にて見学を終了し解散。希望者は16:30からのもみじライトアップを待ち、美しく紅葉したもみじが漆黒の水面に映る幻想的な世界を堪能しました。

城山公園 不動池ライトアップ
旧大隈邸 神代の間の前にて

1885年西洋医学先端治療のひとつとして日本で初めての海水浴場が開設され、多くの政財界人や文化人が保養や療養目的で邸宅や別荘を構えるようになった大磯の地。近代日本を動かした人々の貴重な歴史的建造物の宝庫です。現在整備中ですが、緑豊かな歴史的佇まいを保全・活用することはとても意義あることだと思いました。
水沼氏は大磯邸園に関わる委員会の委員でいらっしゃいます。整備が終わり、2024年建物内部や邸園が公開されたら、もう一度案内役をお願いして訪れてみたいです。もちろんその時までに近代史を勉強しておかなくては・・・。

2021年12月 企画係

 

<参加者アンケート結果、振り返り>

見学参加者へのアンケート結果⇒リンク

参加者に学生さんや若い世代の方がいらっしゃらなかったのは残念でした。参加者は少なかったのですが、充実した内容で有意義な見学会であったという感想もいただきました。少人数でのグループ見学はお話が聞きやすく、その場で質問もできることから理解が深まったのではないでしょうか。

見学地の候補がいくつかあがってきましたし、東京近郊だけでなく地方会員が参加できるような企画(地方支部?の立ち上げを含め)を考えてはどうかというご意見もいただきましたので検討させていただきます。

今後も皆様からのご意見をうかがいながら、多くの方に参加していただける見学会を考えてまいります。ご意見などございましたらkikaku_m@jyukyo.netまでお寄せください。