住居の会 「夏の軽井沢」見学会報告

住居の会 「夏の軽井沢」見学会報告        2018年8月4日(土)

8月4日、快晴の天気に恵まれ、避暑地の軽井沢で見学会が開催されました。現地カトリック聖パウロ教会、10時30分集合とのことで皆様の足並みが心配されましたが、定刻には34名全員の参加が確認でき、スムーズなスタートとなりました。余裕をもって来られた方も多く、パウロ教会にも近い懐かしい「三泉寮」(事前に見学を許可していただいておりました)を集合時間前に見学される姿が見受けられました。
受付が済むと見学会の案内をお願いした筑波大学名誉教授 谷村秀彦先生による聖パウロ教会についてのレクチャーがありました。谷村先生は聖パウロ教会メンバーとして建物保守・保存に関わっておられ、また午後の見学先の「吉武アーカイブ」(一般非公開)の所有者でいらっしゃいます。まず軽井沢の宿場町としての歴史から、外国人家族が集まる避暑地となるまで、当時の日本人が西洋の生活を垣間見ることのできる場所となっていったこと、西洋の文化は多くの日本人にとってあこがれだった様子が語られました。聖パウロ教会はカトリックの教会として昭和10時年(1935)に英国人司祭レオ・ウォード神父と建築家アントン・レーモンドにより建てられました。建設の発案から完成まで関わったレオ・ウォード神父は昭和8年(1933)2月に来日しました。一方、フランク・ロイド・ライト事務所の所員として来日したレイモンドは、1年ほどで独立し、日本で設計事務所を開き活動していましたが、自身の仕事場兼別荘として軽井沢に「夏の家」を昭和8年完成させました。軽井沢にミサのため赴いたレオ・ウォード神父がこの「夏の家」を訪れ、構造の杉丸太を隠さず現わしたデザインに共感して、早速教会の設計を依頼したという奇跡のような出会いがありました。神父の来日から教会の完成までが2年余りであったというスピードに驚かされます。谷村先生から教会内でこの歴史的な建設のレクチャーを受けることができ、参加者一同幸せな貴重な経験となりました。
レクチャーの後A、Bの2班に分かれ1時間の時差で行動しました。先行のA班が昼食に向かう間B班は、聖パウロ教会や「三泉寮」をゆっくり見学、旧軽井沢の街を散策する時間が取れました。
レストランの「café涼の音」は旧軽井沢銀座の裏手の隠れ家的レストランで、旧松方家別荘の建物がそのまま使われています。A・B班の入れ替え時に各班の写真、参加者全員の写真をレストランの庭で撮りました。
レストランの内部は2つの部屋に2人から4人席までのテーブルがゆったりと居心地よく置かれており、思い思いに好きなテーブルについて、「海のもののパスタ」又は「スープハンバーグ」のおいしいランチとなりました。私たちのために12時から14時まで2時間貸し切りにしてくださり、ゆっくりランチを楽しむことができました。
食事の後、配られた地図をたどって次の見学地「吉武アーカイブ」に向かいました。木立の中をさわやかな風が吹いて、道端の野草も楽しく、別荘地の散策を満喫しました。夏休みで遊びに来ている谷村先生のお孫さんの道案内や用意してくださった手書きの案内板もあり、2班とも迷うことなく時間までに「吉武アーカイブ」にたどり着きました。
「吉武アーカイブ」は東京大学吉武泰水研究室の資料を保管するために谷村先生のご自宅敷地内に独立して建てられた建物で、その中をのぞかせていただいた後、谷村先生のご自宅にお邪魔して戦後公営住宅のモデルとなった「C51型」(1951)設計当時のお話を伺いました。吉武研究室では設計というものを科学的に学問として確立することをめざし、調査とその分析により原則を見出して設計を体系づけるという研究を続けておられたとのこと、「C51型」の開発は戦後復興にかける35歳の若い研究者、吉武先生の情熱を感じるものでした。ご用意くださった資料の吉武先生自ら描かれた2枚の平面図は、住宅がプライバシーを尊重し個人を育む場となること、主婦の家事労働の負担を軽減するため、台所・食べるところを一つの空間として南側の家の中心に配置することなど、戦後の新しい住宅の在り方を示すものでした。吉武先生がキリスト教の洗礼を受ける経緯などの質問には、谷村先生が奥様(吉武先生のご長女)に声を掛けられ、奥様からもお話を伺うことができ、アットホームな和やかな雰囲気の中、谷村先生のレクチャーが行われました。また別室には奥様手作りのパウンドケーキやお菓子、飲み物をご準備いただき、温かいおもてなしにくつろいだ時を過ごしました。ご参加くださった小川信子先生も谷村先生と当時の吉武研究室ことなど最後まで残ってお話が尽きないようでした。

見学会は「吉武アーカイブ」でA班が2時30分頃、B班が予定の3時30分を少し過ぎた頃、現地解散となりました。参加の皆様は歩いて軽井沢駅に戻られたり、軽井沢の街を楽しまれて家路につかれたものと思います。配られた地図を頼りの見学会でしたが、さすが住居の卒業生、地図の読める女性たちだったようで、混乱もなく無事見学会は終了いたしました。

最後になりましたが、この紙面をお借りして、谷村先生ご夫妻のご厚意に感謝を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。

(企画係)