第17回林雅子賞『一本の樹木と、建築 都市に森を作る新たな建築文明の提案』石川紗也佳(いしかわ さやか)

第17回 林雅子賞選定会のご報告

日時:2019年2月16日(土)
選定委員長:石上 純也 (建築家)
選定委員: 藤村 龍至 (建築家)
選定委員: 永峰 麻衣子(建築家/47回生)
会  場:日本女子大学 新泉山館大会議室

 

 

 

 

 

今回の林雅子賞は、
石川紗也佳さん
『一本の樹木と、建築 都市に森を作る新たな建築文明の提案』(PDF)が受賞されました。

2019年2月16日(土)、昨年を大幅に上回る22のエントリー作品を前に、83名もの出席者を迎え、今年度の林雅子賞選定委員会は開催された。

全体を4グループに分け、各グループ毎に、1人ずつ4分程度のプレゼンテーションを行った後、作品のそばに行き解説と模型を見ながら質疑応答、審査が行われた。審査は熱をおび、予定の17時を大幅に上回る19時近くまで白熱した議論は続いた。
結果、以下の1作品に林雅子賞が、3作品に選定委員特別賞が決定した。

☆林雅子賞
石川紗也佳さん「一本の樹木と、建築 都市に森を作る新たな建築文明の提案」
一本の樹木の成長と共に、家の形態も変化していくという30年、100年先を見据えた提案。チャレンジ精神と想像力に富んだ作品が評価された。

☆石上純也選定委員特別賞
塩田佳織さん「2次元・3次元空間の交錯 -無意識を顕在化するミニシアター-」
2重らせんのミニシアターの提案。ところどころに外部を切り取った窓を設け、奥行きを感じさせ、空間に変化をもたらせている。動線の交錯も変化を感じさせている。

☆藤村龍至選定委員特別賞
米田葉子さん「Home Address Terminal -属性を超えて相対し、許容し、集う-」
ホームレスのためにランドリーを開放した施設を提案。衣装の貸し出し場、脱衣所、待合所等も設ける。新宿の街にシンプルな提案をし、プレゼンテーションが光った。

☆永峰麻衣子選定委員特別賞
阿部祥子さん「緩すスレショルド」
論理と設計のバランスが取れており、積み上げてきた緻密さが評価され、最後まで林雅子賞を争った。

学生たちの情熱と、審査員の熱気を感じつつ、盛会のうちに今年度の林雅子賞選定会は終了した。

■選定委員 藤村 龍至氏コメント
当日は講評にやや苦戦した。ふだん接している美術系大学での講評と異なり意匠系・計画系・構造系・環境系等の学生が混ざり、結果として設計の提案に計画の提案、そして稀にアートのようなプリミティブな表現など異なる評価軸で議論されるべき作品群が混ざっていて、しかもそれらがアカデミックな共通のフォーマットで発表されることで表面上は統一されて発表されていたためであろう。
2000年代以降だろうか。バブル期の箱モノ公共施設や商業施設が集客できずにいる実態への反省から講評会で「誰が使うのか」「誰がお金を出すのか」と<計画(あるいは企画)>面が厳しく問われる場面が増えた。学生の答えは「NPOが使います」とか「アーティストが使います」なのだが、それを問う教員や建築家も施設の管理や運営を手がけた経験がどれだけあるのか不明である。
 空き家を再生してゲストハウスにします、ギャラリーとカフェにします、という提案にはお金の話が聴きたくなるし、次にはオーナーを探して起業したらという話になるだろう。逆に言うとそれをしていない<計画>の提案を経験主義的にいい/悪いとコメントするだけなら実際に事業を回した経験がある講評者の意見のほうが説得力が増す。こうしてかつて<設計>において実務系教員が要請されたのと似た状況が昨今の<計画>において反復されているように思う。
そのような状況に学生は見事に適応している。例えば「地方都市の空き家をゲストハウスに改修する」という提案を「関係人口の増加によるストックの利活用」と研究者的に説明すると上記の講評会のように突っ込まれるから、「実家が引っ越した友人が思い出のある地元に帰ったときに泊まる場所がないからなんとかしたい」と経験主義的に、共感を求めるように説明する。その共感型の説明の仕方を「建築家的」と呼んでもいいかもしれない。
学内では研究者的に、学外では建築家的に、同じ提案に対する説明をうまく使い分けることは社会に出るための訓練の一部であるが、クリティカルではないかもしれない。実際に建っていない<設計>の提案と、実際に事業を回していない<計画>の提案が次々と出てくる昨今の「卒業設計」を、両者の評価軸の違いをはっきり定義しないままフォーマットだけ揃え、両者に対してそれぞれ実務的でもない講評者が無批判に経験主義的に講評することの矛盾を解決していないからである。結果として卒業設計の評価は混乱したまま、その場でのパフォーマンスの強度に対して賞が与えられていく状況があるのではないか。
林雅子賞がもし建築家としての林の像を皆が共有しつつ、その時代ごとの批評性を持つ提案に対して与えられる賞ならば、以上のような評価のあり方そのものを問う議論が毎回多少でもなされ、パフォーマンスの強度のみが問われるようなマンネリ化を避けることを期待したい。なお、当日の発表で聴いた米田葉子さんの語り方は建築家的、研究者的なそれのどちらでもなく、アート的で、批評的だった。その立ち位置の鮮やかに感銘を受け、藤村龍至賞をお贈りした。

■選定委員 永峰 麻衣子氏コメント

汲むちから
林雅子賞の選定委員は、第5回で務めさせて頂いてから2回目となった。その頃に比べると出展作品数も大きく増え、審査過程では学生のみなさんの溢れる創作エネルギーを感じることができた。審査会場には、小川信子先生もいらして下さり、時間の流れの中で受け継がれ続ける住居学科の文化に改めて感謝の想いで学生の作品に向き合う時間となった。

林雅子賞には、石川沙也佳さん「一本の樹木と、建築」が選定された。時間軸を設定し、樹木の周りに形成される住まいの成長をひとつの環境として設計した作品である。一本の樹木の生命と向き合い建築を生み出そうとするその力強いエネルギーが、ダイナミックな模型にも表現されており、林雅子賞にふさわしいと審査員全員で評価した。

石上純也賞には、塩田佳織さん「2次元・3次元空間の交錯」が選ばれた。渋谷の商業地域にミニシアターを計画し、渋谷の路地空間の延長のような「道」と称した空間が二重螺旋を描きながらシアターへと導く。スタディを重ねながら、視点の移動による光の変化、キャプチャーする風景の選定と、多様な「道」空間をデザインしており、混沌とした都市空間に意識的に「無意識を顕在化する」という生来の感覚を呼び覚まそうとする装置の提案を試みた点を評価したい。密度ある渋谷の都市空間を丁寧に紡ぎながら、新たなシティスケープを表現していた。

永峰賞に選定した「緩すスレショルド」は、廃校となった小学校建築を中間領域や閾といった意味を持つスレショルドという概念を用いて改修した案である。敷地は阿部祥子さんの出身地今治市の小学校に設定されているが、全国に残る近代小学校建築に対する空間再生提案の一つといえる。ここでの空間操作手法は「ウズショルド」や「オリコミショルド」などと名付けられユニークであった。「動作の息継ぎを作り出す」というコンセプトからは、自身の空間体験を大切に空間化しようとする姿勢がみられ共感を覚えた。平成育ち世代の学生の多くは、画一的な近代箱型建築が彼らが学び育った環境であろう。彼らの記憶の一部であるコンクリートの塊をそこにある地形のように捉え、その場所に積極的に空間操作を試みようとする姿勢には、時代の思考を垣間見ることができた。

惜しくも賞に入らなかった他の作品からも、真っ直ぐに各々の敷地に向き合い、建築を生み出そうとする力量を感じた。その場所、その地域の抱える課題をデザインそして空間化するために、少し先の時代を見据え、感覚を研ぎ澄まし、空間のもつ魅力を汲むちからをこれからもぜひ伸ばしてほしい。