第6回 林雅子賞 『CROSS-地域コミュニティ形成のための施設の提案-』 高橋絵美子

開催日: 2008年2月23日(土)
選定委員: 委員長 青木淳(青木淳建築計画事務所)
林 昌二(建築家)
飯尾 昭彦(住居学科教授)
沖田富美子(住居学科教授)
石黒由紀(石黒由紀建築設計事務所、40回生)
会場: 日本女子大学 新泉山館 1F 大会議室

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第6回林雅子賞選定会ご報告

01今回で6回目を迎えた林雅子賞選定会は、2月23日、新泉山館に於いて行われた。
選定委員長に青木淳氏、選定委員に林昌二氏、飯尾昭彦教授、沖田富美子教授、石黒由紀氏(40回生)を迎え、昨年に引き続き一般公開方式とした。本学の学生のみならず他大学や高校からの来場がありスタッフも含め総勢約140名(うち外部より50名)となり、立ち見が出るほどの盛況で林雅子賞選定会への高い関心が伺われた。

02今回の選定会は4年生の卒業制作から11作品の応募があった。そのテーマはバラエティに富んでおり、公共施設が6作品、集合住宅に着目したもの3作品、ランドスケープ的な案が2作品であった。会場には図面と巨大な模型が壁一面に展示され、参加者の多くが開会前後や休憩時間に熱心にメモをとったり、写真をとったりしている姿が見受けられた。
発表は持ち時間5分でスクリーンに映像を映しながら作品説明を行い、質疑応答はその後一人ずつ順に行う形式で行われた。エスキースを重ねてきた努力と自信が彼女たちを堂々と見せていた。

03審査の結果、今年度は高橋絵美子さんの『CROSS』が受賞した。高橋さんの作品は地域コミュニティー形成の契機になるような施設の提案をしたものである。3辺を道路に囲まれた三角形の敷地にカフェ、ギャラリー、ワークショップ室などの<パブリックスペース>と広場、大階段などの<公園スペース>および利用者の自由な活動に対応できる<貸し館スペース>を重層的にレイアウトしている。「門型」の空間を平面と立面方向に重ね合わせたクラスター型の建築形態のなかに階段や吹き抜けなどの空間が組み込まれている。すべて壁面で構成される面がある一方で、直行する方向は全面ガラスで開放しているのが特徴である。他の諸室を利用している人や外部空間を歩く人との「見る・見られる」関係をアクティビティーの視覚化に変換して関係性を生み出し、コミュニティーの創出につなげようとする作品である。
04質疑応答で近隣に対しての視線をどのように考えているかを問われた際、高橋さんは視線が交わる事で不都合を生じる部分は公園スペースにしたり、レベルを変えるなどの配慮をして解消した事を説明した。また、プランやボリュームに変化があってもよかったという指摘に対しては法的規制をクリアしながら形態の検討を重ねた結果であると回答した。

05選定委員を代表した青木選定委員長の総評ではどの作品もわかりやすく、綺麗にプレゼンテーションがされ、誰が受賞してもおかしくなかった、何をもって評価するのか悩んだとのコメントがあった。(実際、別室で行われた審査では当初、複数の支持を得る作品がなかったほど票が割れた。)そこで今回は<言っている事とやっていることが一致>している作品を選ぶポイントにしたという。門型フレームの形態でコミュニティー施設を開放的につくる事は難しく、同時に開放した面については開放する事によるマイナス面の対応が必要となるが、高橋さんの作品『CROSS』はそうした点について検討がなされており、その努力と成果を評価したとの事であった。
06審査の課程で、林雅子先生の賞であるから住宅作品に授与したらどうかという提案もあったが、どの案も「人が住む事」、「人が生活する事」を切実に思いながらスタートしている作品なので全てが林雅子賞の対象になり得るとの結論に至った、というエピソードも披露された。
受賞した高橋さんには2008年度住居の会総会にて賞状と副賞が授与される。

07続く講演会では「バナキュラーではなく、スノッブでもない。でもスタイルがある。」との林雅子先生の作品評を皮切りに、青木氏の作品を写真とともに解説していただいた。
馬見原橋、御丈小学校、TARONASU GARALLYなど、ご自身にとって思い入れがあるという初期の作品を通じてプロジェクトへの取り組み方や設計の時に考えた事などをご講演いただいた。
08「道とは何か」「小学校とは何か」など、本質を問い直し、その<質>を引き継ぎながら、「新しい事」「スノッブではないもの」「許容力のある空間」に挑戦したという、<質>をコントロールしたプロジェクトの数々だった。「スノッブではないもの」とは演出や格好良さをみせるのではなく、もののあり方から突き詰めることであり、今回の学生の案はどれもスノッブなところがなく好感をもったとご自身に引き寄せながら語ってくださった。また「スノッブではないこと」は体質ではなく、様々なオファーに対し、いろいろなレンジで設計したいと考えていると、現在の心境を語られた。
4月から新たなスタートに立つ学生達の一つの指針になるようなお話であった。

09最後に林昌二氏は青木氏の講演を受けて本学の学生には他大学にはない良さ、スノッブではない良さがあり、どの案もよく考えていて感心したと感想を述べられた。そして原点を失わずにつくっていく事が大切である、と学生達にエールを送ってくださった。

選定会の後、会場を移して行われた講評会では選定委員からコメントや、アドバイスをいただいたり、記念写真を撮ったりと有意義なひとときになったようである。11名の応募者全員には審査委員よりサイン入り参加賞が贈られた。

選定会が盛会のうちに終了できましたこと、ご協力いただいた皆様に心より感謝申し上げます。特にお忙しい中、選定委員長を務めてくださった青木淳氏、および石黒由紀氏をはじめとする選定委員諸氏に厚く御礼申し上げます。また、住居学科の先生方をはじめ、関係者皆様のお力添えにもこの場を借りてお礼申し上げます。

(林雅子賞プロデューサー 佐藤由紀子/39回生 F.A.D.S)

選定会委員長より 選定委員長 青木淳氏

独りよがりの観念的なアプローチからも、あまりに壮大な社会改革的なアプローチからも、大きく距離をとられていた作品が目立ったのが印象的でした。では、どのようなアプローチがそこにあったのか、と言われれば、それは、制作された方々の個人としての日常的な「気づき」からはじめ、それをゆっくりとふくらませ、最終的には、建築的な構想にまで至らせるというアプローチではなかったか、と思います。
そうしたアプローチを、ひとりひとりのプレゼンテーションから感じながら、私は、それこそ「林雅子賞」にふさわしい姿勢だな、と思いました。スノッブであることから距離を置き、演劇的な建築的身振りを避け、日常生活のほんの少し向こうにある別の世界を描き続けた林雅子さんの後継が、今もまた綿々と生まれてきていることを目のあたりにした思いでした。
どの方の作品もすばらしく、どの方に林雅子賞を差し上げたらいいか、審査員一同、おおいに迷いましたが、最終的には、かたちのあり方を執拗に検討されたことが明瞭に受け取られた高橋絵美子さんの『CROSS』に、賞を差し上げることにいたしました。
これからの皆さんの益々のご活躍を期待しています。