新型コロナ感染拡大の影響で心細い日々を過ごしていらっしゃる会員の皆様へ。
このような時こそ、つながっていきましょう!
日本でも状況が厳しくなる中、海外で暮らす同窓の方々の【今】を届けていただきました。(執行部)
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■ 福田陽子(Yoko Fukuda-Noennig)さん 44回生/後藤研ゼミ/ドイツ、ハンブルグ在住
建築関連企業勤務の後、早稲田大学建築史系研究室で修士号取得し、母校に戻って住居学科専任助手、後藤研究室にて博士号取得。早稲田の交換留学生(現夫)をたより2005年に渡独、12年間ドレスデンに住んだ後、現在ハンブルク在住。2006年より建築雑誌「A+U」特派員、2019年より日系企業勤務。建築ジャーナリストおよびライター兼サラリーマン。
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武漢と横浜港に停泊しているダイアモンド・プリンセスが新コロナ・ウイルスで騒がしくなっていた一月、ドイツ人はこれに注目するものの危機感はゼロでした。ナチス・ドイツへの大反省から人種差別撤廃のために徹底した教育がなされているドイツゆえ、他国で報告されたようなあからさまな暴言や暴力はありませんでした。しかし、日本人が集まってお茶をしていたら「中国人ですか?」と聞かれたり、レジに並んでいたら前の人が「コンニチ、ワ…?」と間接的に確認してきたり、気にしていることは伝わってきました。
日本の方が早くに買い占め騒動が始まっていたので、いずれドイツにも来るかもしれないと思った私はレジの人のびっくりした顔をよそに消毒液関連商品をまとめ買い。そうこうしているうちに店頭からこれらの商品が品薄になり、日本のあとを追うようにトイレットペーパー→パスタ、ジャガイモ、小麦粉、冷凍野菜などの保存のきく食品→使い捨て手袋の順で売り切れあるいは品薄状態。2月から3月にかけてのトイレットペーパーの売り上げは実に700%アップという驚きの数字に。
マスクは誰一人として着用していないのに早々に売り切れでまったく入荷しない状態が続きました。戦時下の戦況の悪化をなぞるごとく、次々と政府や州が発表する措置が厳しくなり、それに伴って生活の範囲が狭くなっていきました。私が勤務する会社の入口には握手を禁止するポスターが貼られ、グローバル会社ならではの出張の制限や禁止について、会社としての対応について喧々諤々の話し合い。会社のトップが「会社にとってのこんな危機は初めてだ」というほど。
それでも知の維持と思われている書店、衛生維持に必要な美容院、職人に属する自転車屋、テーブルの間隔を1.5メートル間隔にあけることが可能な飲食店などの営業は対象外でした。ハンブルクの学校は3月はじめから2週間の休暇があり、我が家も自然がいっぱいの中でのんびり過ごしていましたが、テレビのニュースが伝えてくる情報は重苦しさがつのるものばかりになりました。休暇から戻ってきたら世界はまるで変っていた、人々の意識も変わってしまった、という焦りがつのりました。もういつもの日常の世界ではない、と。
危険地域と指定された地域からの帰国者は二週間の自宅隔離と言われた二日後には、すべての学校は休暇後続けて2週間閉鎖措置になりました。しかしそれはすぐに4月19日まで延長されました。一気に緊迫感が増したのは、ウィルスが空気中に3時間ほど滞在するという発表があってからでした。いきなり通勤電車が不気味なほどガラ空きになり、対人距離について無言ながらぴりぴり。
会社の歓送迎会でレストランの一角を貸切って飲食したのも、美容院に行ったのも、子供たちが毎週テコンドークラスに通ったのも、ドレスデンから来てくれた友人家族と会ったのも、リハビリスポーツのクラスも、週末通っていたお楽しみのプールも、毎週土曜日の日本語補習校も、近所のピザレストランで家族で食事したのも信じられないくらい昔の別世界に思えるようでした。そんなことが可能だったなんて。
政府と州が刻々と決定していく対策措置に対し、ドイツ人は自らも情報収集をして粛々と敏感に反応し、自主的に行動していった感があります。(そうは分かっていても、指示に忠実に従って着実に実行していく姿は、ユダヤ人の強制収容所の輸送の指揮的役割について「命令に従っただけ」と裁判で語ったナチス政権下の親衛隊のアイヒマン的な要素をドイツ人なら誰しも持ち合わせているのだと思わせ、空恐ろしい気持ちが無きにしも非ず)
集会の禁止や行動の制限は治安維持法にも通じ、このような非常事態に乗じて法案が簡単に可決されていくのは戦前のドイツの状況とも重なるので危険だと思うのですが、日本のように人権とか自由の権利とかいう大きな反対もありませんでした。
ヨーロッパは地続きということもありイタリアの惨状は遠いことではなく、人権や自由を一時的に犠牲することに意味があると国民が判断したのだと思います。そしてメルケル首相の真摯な演説は素晴らしいものでした。ウィルスの状況とドイツの感染の状況、その深刻さの説明、それに対する国の方針と対策、そして国民に求める犠牲のお願い、政府が行う救済措置。
国がまるごと監獄状態で監視国家だった東ドイツ出身のメルケル首相の良心だけが頼みの綱です。国民に一定期間強いる制限や禁止に伴う経済的な損失についての対応も早いものでした。業種や職種関係なく減益を被る企業や経営者は簡単な申請で即時に手当がもらえ(後日、適正であったかは審査されるようですが)、家賃が払えなくても一定期間は追い出されることがなく、その分家賃収入がなくなる家主に対しては国が援助。
コロナウィルスの状況の悪化のスピードと、人々の危機感上昇のスピード、そして政府の対応と経済的な援助のスピードがうまく一致していました。バイエルン州の一部の都市では外出禁止令が出ており、ハンブルクでもいまかいまかと構えていましたが、今現在出ていません。対人距離を保ち、二人以上一緒に集まらなければ散歩もジョギングも可能です。それをいいことにお隣の州の海岸の美しい保養地で散歩しようと考える人は多く、春の陽気になった先週末には州境で待ち構えていた警察につかまって罰金約100€を払った車が600台いたようです。その後も徒歩や自転車で突破しようとするハンブルクからの人を阻止すべく攻防戦が続いています。
私が勤務する会社は3月19日から基本的に在宅勤務となり、すでにその前から在宅勤務になっていた夫と学校閉鎖となっている二人の子供たちとほぼ24時間一緒に自宅にいます。朝食後には家族そろって散歩をし、買い物があるときは人の少ない午前の早い時間に忍ぶごとくすたたと済ませます。
子供たちは学校からメールで送られてくる課題を毎日こなし、夫はウェブ会議につぐウェブ会議で忙しく、私は在宅勤務に加えて昼食の準備(しかも毎日)という仕事が追加されました。通常、夫は帰宅時間が遅く週末も自宅で仕事、私はフルタイム勤務のために子供たちとの時間は毎日2時間あるかないかです。一緒に何かするわけではないけれども、三食一緒に食事をとり、毎日一緒に散歩をし、勉強をみてあげられる時間がとれることは非常事態における日々の中では唯一転がり込んできたラッキーなことでした。
いずれ覚悟はしていましたが、会社の売上激減により4月3日から時短勤務の通知がきました。50%の勤務時間になるので給与も50%。しかし減給分はドイツ政府による補填があるため、はからずもドイツの耐力の恩恵を受けることになりました。スーパーマーケットと薬局とドラッグストアとガソリンスタンドくらいしか開いていないので確かにつまらないです。息抜きに外食することもできないし、どこも行くところはありません。しかし、世界の状況を見る限り、コロナウィルスの行方を左右する公衆衛生・医療体制・国の経済力において高いレベルを持つドイツゆえに文句を言うのは罰が当たると思っています。
非常事態宣言が出された日本ですが、これまでの感染者数の少なさは不思議なこととして受け止められています。靴を脱ぐ習慣、手洗い・うがいの習慣、握手やハグなど身体的接触を伴わない挨拶、公共交通機関内では私語を慎む、マスクの日常的な着用という日本ならではの普通のことが今回の感染の抑制に効果があったことは確かでしょう。
お疲れ様会と称して医療関係者が大勢で会食?歌舞伎町でクラスター発生?K1開催?桜?映画館の入りが一回3人?…開いていることに驚きました。短期決戦覚悟で向かわないと、感染も経済活動も学業もすべてがケリのつかない中途半端な状態が続くことになるでしょう。
この原稿を書いている間も各国間のマスク争奪戦激化のニュースがメインになっています。ブラジャーメーカーのマスクがブラジャーすぎて話題になったり、色々な柄を用いて面白いマスクが登場したり、スマホケースといい坪庭や根付のように小さいところにアイディアと技術をぎゅっと凝縮させることは日本のお家芸。
コロナウィルスをきっかけに一躍脚光を浴びて「つけること」を求められたマスク。made in Japanのマスクがこんなところにも面白さや遊びを盛り込められるんだよ!ということを世界に伝えられることを願っています。ドイツでも公共交通機関の利用にはマスク着用が条件になるかもしれないので、これから私も日本のサイトを見ながらポップで楽しいマスクを手作りしようと思います。
住居の会の皆様のページに書く機会をいただきまして、また読んでいただき本当にありがとうございます。
健康に気を付け、どんな時でも明るく元気にいきましょう♪
2020年4月8日
福田陽子(Yoko Fukuda-Noennig)
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