【今こそつながろうプロジェクト】アメリカ シアトルより

中村有理沙さん(60回生)からシアトルの様子や、ご自身の活動のコラムをいただきました。中村さんの楽しく可愛いイラストと写真も一緒にお楽しみください!


◆中村有理沙さん(60回生)
米国シアトル在住。日本女子大学在学中にウェルズリー・カレッジ(ボストン)に留学。卒業後、東京工業大学土肥研究室で修士号を取得し渡米。ワシントン大学大学院でランドスケープデザインとコミュニティデザインを学ぶ。同大学院で修士号を取得後、日系人の歴史や文化を伝える非営利団体ワシントン州日本文化会館に勤務。デザイナー兼漫画家としても活動。
詳しくはhttps://www.arisan-artworks.com/へ。


アメリカ、シアトルより〜米国最初の感染確認から約2年

コロナ禍、街はベニヤ板で塞がれた

米国で最初に「新型コロナウィルスの感染症例が確認された」と報道されたのは、2020年1月、シアトルでした。その2ヶ月後には自宅待機命令が発令。コロナ前には全くと言っていいほど見かけなかったマスク姿の人々を、その日を境に数多く見かけるようになりました。当時はアメリカ人の対応の柔軟さに驚いたものです。

(写真)2020年3月筆者撮影。トイレットペーパー以外にも、卵や小麦粉が品薄に。現地友人によると、大雪などで出掛けられない時などにパンやクッキーを焼く「Stress Baking」が理由、とのこと。またこの頃、スーパーは早朝に高齢者向けの入店時間を設けているお店が多かった。

さらに同年夏にはジョージ・フロイトさんの死を発端に、ブラック・ライブズ・マター運動が巻き起こり、特にシアトルでは全米で唯一の「自治区」が出現。街には暴徒が現れ、緊急退避と夜間外出禁止命令が発令されたこともありました。マスクをつけて街を行進する、平和的抗議活動を行う人々もいましたが、当時の治安の悪化は、出口の見えないコロナ感染拡大で疲れ切っていた日々に、さらに暗い影を落としました。

(写真)ベニヤ板で覆われたシアトル日本町の一角にあるお店、Kobo Higo (旧:肥後十銭店。熊本出身の移民が経営していた)。ジョージ・フロイドさんや日系文化を象徴する鳥居が描かれている。制作は日系人アーティスト、エリン・紫垣(Erin Shigaki)さん。2020年6月筆者撮影。

シアトル日本町がある「Chinatown- International District”(チャイナタウン・インターナショナル・ディストリクト)」はアジア系移民が多く暮らす地域であり、コロナが発生した直後から破壊行為の被害が発生、アジア系をターゲットにしたヘイトクライムという見方がされていました。暴動が起こり始めた2020年6月以降、さらなる被害を恐れた地域の人々は、草の根の力で団結。店舗のガラスはベニヤ板で覆われ、そこにはブラック・ライブズマター運動を支持するメッセージや日系人に関する歴史が、色鮮やかに描かれていきました。

 

ワクチンを打つ自由、打たないことによる不自由

第二波、第三波と感染拡大と減少の一進一退を繰り返している間に、アメリカでは2020年の終わり頃からワクチン接種が開始。医療従事者や高齢者の方の後、2021年春には一般の人々(子どもを除く)も薬局や公共施設で注射を打つことができるようになりました。その頃には、私も職場に不定期ながらも通勤できるようになり、元の生活に戻る兆しが見えてきた時期でした。

(写真)ワクチン接種証明書(カード)と、ワクチン接種完了者に配布されたステッカー。「I was vaccinated!(ワクチン打ちました!)」と書かれている。2021年5月、筆者撮影。

2021年11月現在、シアトル市のあるキング郡では、10月末からレストランでの食事や屋内イベントに参加する場合に、ワクチン接種証明の提示が必須となりました。またバイデン政権は、11月に従業員100人以上の企業に対し、2022年1月4日までにワクチン接種を義務付けることを発表。ワクチンの接種は「個人の自由」という意見が米国では根強くありますが、ワクチンを接種しない人にとって生活は徐々に不自由になってきています。

 

日系の歴史・文化を伝える「ワシントン州日本文化会館」

(写真)ワシントン州日本文化会館で開催されたイベント「文化の日」。館内の大道場のスペースを利用して、日本全国の伝統工芸品が展示された。2021年11月、筆者撮影。

私の勤務先である、日系の歴史や文化を伝える非営利団体「ワシントン州日本文化会館(Japanese Cultural & Community Center of Washington、略称:JCCCW)」は、先日「日本の伝統工芸品展」を開催しました。キング群のガイドラインに従い、入場にはワクチン接種証明または72時間以内の陰性証明提示が必要となり、来場に伴う混乱が心配されましたが、大きな混乱もなく、3日間の会期中、計300名以上の方々に来場いただきました。南部鉄器や大館曲げわっぱ、大堀相馬焼、江戸切子、京扇子、博多人形、琉球漆器など、日本全国の職人の技術をご覧頂き、大盛況でした。

(写真)ワシントン州日本文化会館の外観。筆者撮影。

同会館は、アメリカ本土最古の日本語学校の元校舎にあります。1890年代以降、渡米した一世たちが、資金を出資し合って、自らの手で建設した建物です。自分たちの子孫が「日本の言語、文化、歴史、そして精神」を学べる場所として、「国語学校」として始まった日本語クラスは、現在「シアトル日本語学校」と名を変え、今も続いています。日系人が強制収容された戦時中には、米軍兵士が同施設を利用しましたが、戦後は強制収容所から戻った人々が仮住まいとして利用しました。その当時は「ハントホテル」と呼ばれていました。現在では、日本語クラスに加えて、日本の物の再販店、日本語の図書室、西北日系博物館、日本庭園などがあり、また様々な日米文化交流事業をおこなっています。JCCCWについてご興味がある方は、ぜひ同会館のバーチャルツアー(https://www.jcccw.org/virtual-tour)をご覧ください。

 

日米の行き来が元に戻るその日を楽しみに

コロナウィルスの感染拡大はいまだに収束しておらず、日米の行き来も、隔離期間や行動制限が必要となり、以前のように気軽には帰国できない状態が続いています。シアトルには、紀伊国屋書店や宇和島屋(日本食・日本の品物の揃う大型スーパー)や美味しい日本食レストランがあるため、ホームシックにならずにすんでいます。しかし、熱い「温泉」がありません。次の帰国で、肩まで温泉に浸かれる日を、心より楽しみにしております。

シアトル・北米報知新聞で連載中の漫画「Shin Issei Journey 新一世日誌」(作:中村有理沙)より。全エピソードはhttps://www.arisan-artworks.com/にて公開中。

 


ワシントン州日本文化会館について

【バーチャルツアー】https://www.jcccw.org/virtual-tour

【Facebook】https://www.facebook.com/JCCCW/

【Instagram】https://www.instagram.com/jccc_washington/

【Twitter】https://twitter.com/jcccw

【Youtube】https://www.youtube.com/c/JCCCWA


 

中村さんはシアトルで日系の歴史や文化を伝えながら、移民問題から人種問題にまで深く取り組んでいらっしゃいます。その活動は地元WEBサイトでも紹介されていました。
https://www.junglecity.com/people/hottalk/arisa-nakamura/
是非併せてお読みください。



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2021年11月 広報係