第4回 林雅子賞 『ROOMS』 武田 睦子さん

開催日: 2006年2月27日(月)
選定委員: 委員長 富田玲子氏(象設計集団)
林昌二氏(建築家)
沖田富美子教授
篠原聡子助教授
篠節子氏(24回生、株式会社アルセッド建築研究所)
会場: 日本女子大学 樟渓館3階ワークショップA室

コンセプト

都市の流れ。
都市には未だに次々と高層マンションが建設されている。
敷地の神楽坂地区においても、低層・小規模の建物と路地は巨大な高層マンションに変えられてしまった。

路地と歴史と老舗のある町、神楽坂。
路地は様々な石畳や緑のしつらえにより魅力的な表情をもつ。
街並みは住民によって残され、守られ続けてきた。
敷地の地名は「寺内」。
「寺内」から東方へと料亭街は発展していった。

現状は高層の集合住宅と駐車場から成る。
このマンションが周辺環境との不調和をもたらしている。

1・個人の領域と公共の領域の在り方、ちょっとした佇むことのできる場所を考慮し路地空間を復活させ、店舗を設ける。
都市に集まって住むことを、都市を俯瞰するのではく人間の視線から考え、住宅から単位を下げ、部屋 : Room から考えていく。

2・神楽坂は起伏の多い町で、周辺にも坂や段差が多く見られる。
敷地は1/20の勾配をもつ大久保通りに面し、敷地内では3mの高低差をもつ。
この高低差をなだらかな坂ととらえ、ヴォリュームの高さ方向に取り入れる。
平面では、敷地の概形線を用い、かつて存在した街路を復活させる。
現在、街路は存在しない。
敷地に存在した街路を再現させ、敷地の概形線を使用し、他の道路へつながるように微調整する。
よって、ヴォリュームを形成する上での、平面X,Y方向が決定し、勾配との関係性からヴォリュームが決定する。

3・中央には新しい坂をつくった。
坂沿いに店舗を配置し、ポケットパークを設けることで人のたまりをつくる。
住戸へ直接アクセスにすることで人のアクティビティが通りににじみ出る。
また、ちょっとした佇むことのできる場所が実際の生活ではなかなかみられない。
コンクリートブロックを配置することで、人の行動のきっかけをつくる。

4・こういった機能を含む部屋の集合体、集合住宅を形成し、集合住宅を素材としながら十分に機能する街路を形成した。

第4回林雅子賞選定会ご報告

01第4回林雅子賞選定会は、2005年度卒業制作から計8点の応募がありました。 前回同様に、エントリー作品の発表および講評は公開で行われ、学生の皆さんや住居の会会員の方々が参加してくださいました。
午後1時から、持ち時間一人8分で図面・模型・パワーポイント等を用いて作品のプレゼンテーションが開始され、それぞれの発表の後に選定委員や見学者との質疑応答が行われました。

023時から選定委員のみによる選定作業に入り、厳正な審査の結果、武田睦子さんの作品「Rooms」が選ばれました。
3時半過ぎから応募者と見学者の皆さんを前に、まず富田委員長から作品一つ一つについて丁寧な講評が行われました。その後受賞者の発表が行われ、林昌二氏の祝辞で乾杯、そして応募者の皆さん全員にそれぞれの力作に敬意を表して小さな花束が贈呈されました。

03引き続き参加者全員でのお茶会形式の懇談となりました。今回も、受賞者だけでなく応募者ひとりひとりに対して、選定委員や先生方をはじめ住居の会会員からの様々な意見やアドバイスをいただけたことは、これから社会に羽ばたこうとする卒業生の皆さんには 大変貴重な時間であったと思います。特に林昌二氏と富田玲子氏からの暖かい励ましの言葉は、私ども年上の卒業生にとっても心温まるありがたいものでした。

04今回の選定会と懇談会が盛会のうちに終了しましたことに、ご協力くださいました皆々様には厚く御礼申し上げます。 特に富田玲子氏にはお忙しい中2回にわたり選定委員長をお勤めいただき、心より感謝いたします。
次回は富田氏に代わり新しい選定委員長を迎える予定です。
選定の方式も、これまでの経験を元に 多くの方々、特に学生の皆さんに多数参加していただけるよう、工夫を凝らしていきたいと思っております。来年度4年生・院2年になられる方々には、次の林雅子賞を目指してぜひ頑張っていただきたいと思います。私どもも応援いたします。

※ 受賞者には副賞として松江美枝子氏(12回生)デザイン・制作のブローチと、林昌二氏より作品集『建築家 林雅子』(新建築社)が、それぞれのご好意により贈呈されます。お二方にも心より御礼申し上げます。

(副会長 尾崎澄子 記)

「建築の喜び」 選定委員長 富田玲子

林雅子先生は「良い建築とは、機能的で快適であることはもちろん、その上に大きな〈喜び〉が感じられるもの、〈喜び〉は、その建築が『人の気持に合うこと』『土地の気持に合うこと』から生まれるもの」と考えていらした様に思います。
どの応募作品にも〈喜び〉が溢れていました。”住人”も”土地”もわくわくしてとても楽しくなる様な計画ばかりでした。受賞作品は、神楽坂の一角を蹂躙する様に建っている超高層ビルを壊して、その跡に低層高密度の生き生きした居住都市空間を創り、かってあった街並を現代的に再現させようという魅力的な提案です。地形の特徴が生かされ、また、かってあった道筋が復活して、多様な空間が生み出されて居ます。現状の〈悲しみ〉の対極にある〈喜び〉の表現が素適でした。
計画者自身が楽しみながら作業することが人々に喜ばれる計画を作る上で最も重要だと思いますが、その意味でも全ての作品がとても印象的でした。皆さんのこの様な気持ちを大切にして社会に羽ばたいていただきたいと思って居ります。
(とみた れいこ/象設計集団)