【今こそつながろうプロジェクト】石川 孝重名誉教授より

石川孝重名誉教授が2021年日本建築学会の教育賞(教育業績)を受賞されました。
おめでとうございます。

石川先生から早速ご寄稿いただきました。
日本女子大にご着任された36年前から、今日までを振り返っていただきました。
たくさんの時代を経て積み重ねられた先生の実績は住居学科の歴史でもあります。
懐かしい風景や出来事を思い出しながらお読みください。

また、卒業生からのメッセージ、楽しいエピソード、お写真などもこちらに掲載いたしております。併せてお楽しみください。

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石川孝重(いしかわ・たかしげ)先生 日本女子大学・名誉教授(工学博士)

1984年~1995年 日本女子大学家政学部住居学科専任講師・助教授
1995年~1996年 The University of British Columbia (Canada) 客員助教授
1996年~2020年 日本女子大学家政学部住居学科教授
1998年~2001年 日本女子大学大学百周年記念事業推進本部生涯学習総合センター開設準備室長
2001年~2006年 日本女子大学生涯学習総合センター所長
2006年~2009年 日本女子大学学園活動評価・戦略室長
2009年~2011年 日本女子大学大学院家政学研究科・人間生活研究科委員長
2011年~2015年 日本女子大学家政学部長
2019年~2020年 JWU女子高等教育センター所長
2020年~現在   日本女子大学名誉教授・客員研究員

<受賞歴>
2009年日本建築学会教育賞(教育貢献)受賞
2011年日本建築学会学会賞(論文)受賞
2021年日本建築学会教育賞(教育業績)受賞

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ライフワーク始動

1984年4月に専任講師として着任してから昨年3月の定年退職まで36年間、日本女子大学で教育・研究活動に従事させていただくことになりました。赴任当初はいまはなき泉山館(私の生誕年に竣工)の3階の二つに仕切られた研究室で3年ゼミ、4年卒論生とともに研究活動が始まりました。ゼミは当時まだもの珍しかったコンピュータのアルゴリズムやプログラミングをテーマにしていました。卒論テーマは基本的には学生個々の希望でしたので、バリバリの構造というより、家政学部住居学科として、人や生活の安全・安心に関わるものが多く、私自身のライフワークの研究テーマにも大きく影響を受けました。人の動作によって生ずる床振動の居住者による感覚評価から最終的に感性工学にいたり、「環境振動に関する感覚評価の特性の解明とその性能評価手法に関する一連の研究」(2011年日本建築学会学会賞(論文))につながりました。1995年に構造・材料実験棟(動電型の3軸振動台設置)をつくれたことが大きな助けになりました。

構造・材料実験棟(写真は住居の会主催の子供向けイベントの様子)
実験棟の天井高は10m

震災によって研究が市民へも展開

1995年には阪神・淡路大震災が発生し多くの家屋倒壊が起こり、犠牲者や避難者がでました。その数年前から安全・安心の追求から災害研究を研究室テーマにしていましたので、地震発生直後に現地に行き、被災状況に大きなショックを受けたことを今でも鮮明に覚えています。これらが、建築構造に関する大学教育プログラムの変革と教材開発およびその実践ならびに防災・安全に関する市民啓発に対する一連の活動(2021年日本建築学会教育賞(教育業績))につながったものと思います。

実は1995年はカナダのブリティッシュコロンビア大学に4月から1年間行くことに決まっていましたので、1月17日に震災発生、3月末に外部に向けた同震災研究成果発表会(研究室総動員)、4月1日にカナダへとかなり強行軍な日程でした。

市民向け:年齢に応じたテキスト、教材の紹介

 

建築JABEEの初代認定学科に向けて~初学者への指導~

1996年3月末に帰国後、4月から1年生に構造安全の観点を着実に根付かせるため本学に視覚型体験授業「力と形」(写真参照)を本学に創成し、初学者のための構造教育プログラムを実践するとともに教材開発を行いました。力を可視化できるトラスキットを開発し、2004年には一般販売され多くの教育の場で活用してもらいました。これら一連の取り組みは2009年に日本建築学会教育賞(教育貢献)「構造原理と力学の初年次教育のための視覚的体験型学習の提唱とその実践」を受賞しました。1996年4月からは一級建築士の受験資格要件として、「構造・材料実験」を金曜日午前に4年生、午後に3年生の実験授業を実施しました。「力と形」「構造・材料実験」の授業プログラムや使用教材・使用機材の準備と先に紹介した「構造・材料実験棟」の建設と機器設置をブリティッシュコロンビア大学赴任中に行いましたので、日本との通信料が現地の居住費以上になったのを覚えています。当時windows95が米国等で発売されましたので、彼の地ではすでにe-mailができるようになっていましたが、日本の環境が未整備だったのが悔やまれます。それでもこの一年は私の人生の充電期ともなり大きなエポックになりました。

「力と形」の授業風景とトラスキット(楽しそうですね)

 

2001年に建築JABEEの初代認定大学になったこともあり、本務の教育に励むなかで教育の変革と継続性を強く意識することになりました。その結果、2001年から日本女子大学生涯学習総合センター所長、同学園活動評価・戦略室長などを歴任し、2019年にはJWU女子高等教育センター所長など、日本女子大学にいずれも新しい組織を創設し、大学教育改革、生涯教育、市民啓発など、新たな教育の取り組みとその実践を通じ、幅広い教育活動に取り組んできました。

日本建築学会の活動では、教材として『構造用教材』(1年「住居構造」で使用)、構造部材を可視化する『構造パースペクティブ』、初学者のための構造入門教材『ちからとかたち』(1年「力と形」で使用)などの教材開発に主導的に携わりました。『構造用教材』は時代の流れや学生教育のニーズの変化を意識しつつ、教師から要望の多かった「解説編」を新たに設けました。また『ちからとかたち』は対象学生の状況に応じ、『はじめてまなぶ ちからとかたち』『絵でみる ちからとかたち』と多くの学生ニーズに対応できるように展開しました。(写真参照)韓国語版も出版されるなど、日本の構造教育のグローバル化に寄与しました。

石川先生が開発にかかわられた教科書

 

市民・社会啓発教育へ拡充

1995年の阪神・淡路大震災を機に、構造安全性については専門家だけに任せるのではなく、市民も積極的に関与する必要性や自己責任の観点、職能としての説明責任など、建物に関わる多くの人の意識啓発に取り組みました。リスクコミュニケーション、市民啓発、構造設計者の説明責任、リスクマネジメントなどの実践に向け具体的な教育ツールの開発、そのための教材作成に取り組みました。

専門家以外も構造の安全性を学べる教材をたくさん手掛けた

20年前リモート授業は始まっていた

2001年の生涯学習総合センターの設立では、札幌と福岡にサテライトを置き、リカレント教育システムとオンデマンド教材の開発を行い,オンラインとオンサイトのハイブリッド授業にも取り組むなど、20年以上前から現在のリモート授業に先駆けた取り組みを行ってきました。この頃より、教育用教材についても紙媒体という枠を脱して「初学者のための ビジュアル版 総合教材-木造住宅の一生-」などのDVD&Webコンテンツ教材を作成し、2006年には日本建築学会の創立120周年記念事業としてeラーニング講習会のシステム開発にも関わりました。

2001年の日経新聞夕刊記事とリモート授業説明図


2005年の建築界では耐震偽装などの様々な瑕疵担保に関わる問題が顕在化し、市民啓発だけでなく、専門家に対する技術者倫理に着目し、建築における倫理のあり方や教育手法さらには教材開発を主導しました。姉歯問題や倫理など卒論でも取り上げました。

さらに建築教育を幅広い視点でとらえ、各教育機関で開発された独自の教材、新しい教育システムなど、特色ある建築教育の事例を学会で集約し、お互い活用できるプラットフォーム「教材の共有化」を建築学会オンライン上に設け実践するなど、社会貢献活動にも励んできました。

この度の日本建築学会教育賞(教育業績)の受賞もそうですが、これまでの教育賞や学会論文賞も本学住居学科の学生や卒論生との共働のたまものと認識し感謝しております。特に、研究室でともに活動してくれた学生さんや院生、先輩諸氏の方々のおかげです。ある冊子で不夜城と称された当研究室ですがともに活動してくれた皆さまの顔が走馬灯のように思い出されます。

まだまだ、コロナ感染がおさまりませんが、まずは心身の健康に留意された上で、社会貢献などでご活躍いただけることを切に望んでいます。お元気で楽しくお過ごしください。


石川研究室は今も卒業生が集まり、先生を囲み和気あいあい、研究の推進、近況報告などをしていらっしゃるそうです。
次号で研究室の皆さんからご寄稿いただいています。→リンク (2021年7月1日追記)

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